米Adobe Systems(以下、Adobe)は3月22日から24日までの3日間(現地時間)、米ネバダ州ラスベガスにおいて、デジタル・マーケティングに焦点を当てたコンファレンス「Adobe Summit 2016」を開催している。
世界約50カ国から1万人を超える企業のマーケティング担当者、広告代理店、メディア企業などが参加する同コンファレンスは、世界最大級のマーケティング・イベントでもある。日本からも前年比53%増となる166名が参加。期間中は418名のスピーカーによる、237のセッションが行われる予定だ。
今年のテーマは、「Experience Business(顧客体験中心のビジネス)」。同社は「顧客のデジタル・エクスペリエンスに対する期待値は、18カ月ごとに倍増する。今や、モバイルアプリで情報を提供するだけでは、顧客は満足しない。魅力的なコンテンツを継続的に提供することが、ビジネスの勝敗を分ける」と主張する。
基調講演に登壇した米Adobeで社長兼CEOを務めるシャンタヌ・ナラヤン(Shantanu Narayen)氏は、「あらゆるモノがデジタルの世界で購入できる現在、顧客は“デジタル・ファースト”で企業とコンタクトする。そうした状況において企業は、顧客が期待する以上のパーソナライズされたコンテンツを、一貫性を持って提供する必要がある」と聴衆に訴えた。
かねてから同社は、デジタル・マーケティングの重要な要素して、「一貫性」と「継続性」を挙げている。ユーザーに対してパーソナライズされた最適な商品/サービスを、適切なタイミングで、どんなデバイスに対しても継続に提供することがユーザー体験の向上につながるというのが、同社の見解だ。
同社デジタル・マーケティング担当でエグゼクティブ バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャのブラッド・レンチャー(Brad Rencher)氏は、「企業は製品を売るのではなく、(顧客に満足感を与えるような)体験を売るビジネスにシフトしている」と語る。
モバイルデバイスの急速な普及やIoT(Internet of Things)の台頭で、企業とユーザーの接点は飛躍的に増加した。そのような状況において企業は、単にユーザーの嗜好性を理解するだけでなく、ユーザーのニーズを予測し、一貫性のあるコンテンツを提供することが大命題となっている。
レンチャー氏は、デジタル化によるエンタープライズの変革は、3つの波があると語る。
第一の波は、企業のバックオフィスを変革した波だ。デジタル化によってオフィス業務は効率化した。ERPソリューションの浸透が、その好例だろう。第二の波は、フロントオフィス(顧客管理)変革の波である。CRMの普及により企業は、顧客との関係性を強化し、競合他社との差別化を図った。
そして第三の波が、製品の製造プロセス、販売方法、顧客へのアプローチ手法を変革した「デジタルによる顧客体験中心のビジネス」だ。第三の波が前者2つと大きく異なるのは、その主役が企業から顧客に移っていることである。顧客は消費を牽引するだけでなく、企業のビジネスそのものを変革しようとしている。その“媒介”となっているのが、デジタル化であり、デジタル化が生み出すデータだ。あらゆる接点から収集されるデータを収集/分析し、個々の顧客にパーソナライズされた商品/サービスを提供していく必要がある。
「企業は、一つの接点ではなく鳥瞰的な視点で、顧客との関係性を捉え、継続して『驚きと喜びの体験』を提供し続けなくてはならない。15年前にフォーチュン500に名を連ねていた企業の半分は、すでに存在しない。顧客体験中心の第三の波に乗り遅れてしまえば、企業の存続は危うい」(レンチャー氏)