「バーチャル高校野球」には、前掲の機能以外にも、コアなファンを唸らせる仕掛けは随所に見られる。例えば配球チャート。ストライクゾーンを9分割し、どのゾーンに投じられたかを球種とともにマッピングしていくチャートは、プロ野球中継でもおなじみだが、「バーチャル高校野球」ではこの投球内容をグラフ化し、球種の割合を表示できる。

「今日は前の試合に比べて直球の割合が多く、スライダーが減っている」といった投球傾向の違いを、視聴者自らが試合中に分析できるというわけだ。データをビジュアライズ化するだけでなく、その一歩先に進んだ分析まで行えるわけである。このほか、両チームのヒットや四死球、バント、奪三振などをグラフで対比する機能も用意されている。

リアルタイムの視聴ができなかったユーザ向けの、動画ライブラリも充実している。試合の様子はダイジェスト版のほか、1試合まるごとのプレイバックも可能。

それどころか、各他道府県の代表が甲子園出場の栄冠を勝ち取った、各地方大会の決勝戦のダイジェストまでサイト上で視聴可能(全国49大会に対応)なので、ひいきの出場校の熱戦の足跡を辿るも良し、次の対戦校の事前チェックに役立てるのも良しと、楽しみ方はとどまるところを知らない。インタビュー動画も用意されており、監督や選手の生のコメントをいつでもチェックできるのも魅力だ。

一般に、ネット上で地上波を再配信する場合、コンテンツ自体の完成度が高いことから、それ以外の付加機能はおろそかになる傾向も一部にみられる。その点、この「バーチャル高校野球」の機能の多さ、およびコンテンツの充実度は"異色"といっていい。しかしこの点についても、黒飛氏は明確な意図があったという。

「ユーザが求める機能を公式サイトの中で用意しないと、動画を違法に編集して外部サイトにアップされるなどの危険も出てきます。それを防ぐには、必要な情報を配信するだけではなく、すべての受け皿を公式サイト側が用意する必要があります。高校野球好きの人が何があれば喜んでくれるか、それをどう主催者サイドとして権利を守りながらクリアにしていくか、できる範囲を広げていくかを第一に考えました」(黒飛氏)

その一方、これらの機能は、決してコアなファンだけがターゲットではないというから面白い。野球という競技は、競技人口やファン人数の減少が叫ばれており、視聴率も低下傾向に見られるなどの課題は周知の事実といってもいい。

黒飛氏は「短期的に収入を上げるのも重要ですが、新しいファンを増やし、また離れていたファンを引き戻す根本的な施策もまた重要です。僕個人はスポーツの経験はほとんどありませんが、僕のようなライトなファンでも観たいと思える企画でないと、今後さらにシュリンクしかねないという話はしました」と打ち明ける。

「企画がコアな方向に向かいすぎて、ライトファンが楽しみにくいサービスになりえます。それでは高校野球ファンの増加につながりにくいのでライトファン目線も必要だと思うんです」

自分だけのハイライト動画を作成できる「ハイライトジェネレーター」があれば、奪三振のシーン、ファインプレー、さらには特定の選手にフォーカスしたプレーなど、こだわりのシーンを自身で切り出したハイライトを簡単に作成して公開できる(作成機能はPCのみ対応)。「いままではメディアサイドが見るべきシーンをハイライト化していたわけですが、ネット上ではさらに細かいユーザニーズが拾えるよう、その人が面白いと思ったところを友だちに見せる機能をつけたいと考えました」(黒飛氏)