東京大学、RISTを中心とするチームによる東京の都市部の地震シミュレーション

東京大学(東大)、RISTチームは、発表のタイトルを赤字で修正して発表を行った。Gordon Bell賞論文の発表では、論文提出後により良い結果が得られた場合には、このようにタイトルを修正して発表することが良く行われる。

東京のような都市は堆積層の上に造られている。この堆積層では地震波の伝わり方が非線形になり、従来の線形のモデルではうまく表せない。しかし、非線形のモデルを扱うには陰解法の時間積分が必要となり、線形モデルの場合に比べて計算コストが大きくなるという。

東大チームは、タイトルを赤で修正。写っている人は、セッション議長の筑波大の朴教授

概要を説明する東大の市村 強准教授。堆積層での地震波の伝搬は非線形モデルを使う必要があり、計算コストが大きい

この非線形のモデルの計算を行うために、Multi Grid法、Adaptive Conjugate Gradient法にMulti精度の演算、エレメントごとの計算などの手法を組み合わせた解法を考案した。そして、これらの頭文字を取って、この解法を「GAMERA」と名付けた。

GAMERAを使い、京コンピュータで100億要素のモデルの15秒間の振舞いを計算するのに6.43時間掛かった。SeisSolを使いSuperMUCで計算する場合は、2億要素のモデルの42秒間の振舞いを計算するのに7.25時間であるので、要素数が50倍、シミュレーションした時間は15/42倍、そして積分の時間間隔の影響が∛50倍であり、同じ問題を解くとすると477時間掛かると見積もられる。つまり、GAMERA on Kの方が74.2倍速いということになる。

非線形の波の伝搬を解くには、Multi Grid法、Adaptive Conjugate Gradient法などを組み合わせて新しい解放を考案。頭文字を取って「GAMERA」と命名

発表を行う理研の藤田 航平氏。京コンピュータで100億要素のモデルの15秒間の振る舞いを計算するのに6.43時間。SuperMUCでSeisSolを走らせた場合と比較すると74.2倍速い

IBMの神経回路チップを用いた大脳皮質コンピューティング

IBMはニューロチップ「TrueNorth」と、それを使った大脳皮質コンピューティングについての論文を発表した。画面内にいる歩行者や自転車に乗った人を認識するのは自動運転用のシステムでもできるが、ニューロチップを使った多層の分析を行うと、右の図の吹き出しのように、なぜ、歩道上に車がとまっているのか、乳母車になぜ、大人がついていないのかといった異常な事態を認識できる。また、この図には吹き出しは書かれていないが、噴水の右側の歩道がなぜ濡れているのか、噴水の手前側に2人の子供がいるが、スタンフォード大のキャンパスに小さな子供だけが居るのは不自然などの異常を検出できるというデモを見せた。

発表を行うIBMリサーチのAndrew Cassidy氏

認識の例。単に歩行者や自転車の人を認識するだけでなく、なぜ、車が歩道に止まっているのかとか乳母車に大人がついていないのかという疑問なども提起する

ニューロ計算は多数の第1層のニューロンからの情報を、シナプスを経由して第2層のニューロンに重みを掛けて入力し、第2層のニューロンは重みを掛けたすべての入力を合計し、その値があるしきい値より大きければ出力を出す。第2層の出力は重みをつけて第3層のニューロンに信号を伝えるという風に計算を行っていく。計算量はSOPs(Synaptic Operations Per Second)である。

記憶すべき情報は各入力の重みと接続トポロジだけであり、データ量は少量でローカルな情報だけである。また、出力が出るのは入力が入った時だけであり、イベントドリブンの通信であり、出力箇所が多いという特徴がある。

TrueNorthチップはシナプスのアレイとニューロンからの出力を入力に繋ぐネットワークからなるブロックを多数持ち、それらの間の通信を行うメッシュネットワークを持つという構造になっている。

TrueNorthチップは1M個のニューロンと256M個のシナプスを集積しており、1枚のボードにこのチップを16個搭載している。16個のTrueNorthチップの消費電力は2.5Wであるが、周辺ロジックを含めるとボードの消費電力は7Wという。このボード256枚を1つのラックに収容し、96ラックのシステムを作ると100Tシナプスのシステムとなり、人の脳と同程度の規模となる。消費電力は約400kWで、人の脳より3~4桁大きいが、現在のスパコンを使ってニューロ計算をするのに比べると4~5桁小さな電力であるという。

○がニューロン、ニューロンに入る線がシナプス。処理は超並列で、演算はSynaptic Operations Per Second

ニューロンとシナプスを分離して作ると相互の間の通信ネックになるので、一体化した小さなブロックと、ブロック間の通信ネットワークという造りになっている

1Mニューロンと256Mシナプスを集積したTrueNorthチップを16個搭載したボード。消費電力7W

横軸はシナプス数。縦軸は消費エネルギー。スパコンによる実現に比べて3万~10万分の1の消費エネルギー。40万チップのクラスタは人間の脳と同程度の規模となる

人の脳と同じレベルの規模の装置は、現在のTrueNorthチップを使うとかなり大規模になるが、将来、スケーリングで小型化して行けば、色々な局面で使える規模になっていくと考えている。