次に紹介するのは触感系の「つかんでみよ」のコーナーの「グラビティ・グラバー」(画像23)。グラビティ・グラバーは舘博士と南澤准教授が2007年から研究している技術で、触覚の中に含まれる「力覚」を扱っており、人差し指と親指の爪側に装置が接するようにして指先に巻き付けて利用することで、つかんだ物体のバーチャルな動きを感じられるという内容だ。

具体的には、この装置をつけて現実のプラスティックの立方体をつまむと、モニタ内のCGワールドにある立方体をつまめて自由に動かせるようになる(画像24)。物の固さや重さといった触り心地は、身体運動と触覚の組み合わせ、つまり「感覚間相互作用(クロスモビリティ)」によって生み出されているのだが、それを再現できるのが同装置というわけだ。

画像23(左):グラビティ・グラバーは指に巻き付ける形のシンプルで小型な装置である。今回は親指用と人差し指用の2種類。画像24(右):現実の立方体をつかむと、CGの中の立方体を動かせるようになり、さらに中にボールが入って来たりすると、そのバーチャルな感覚も伝わってくる

ちなみに冒頭で舘博士の近年の研究として紹介した中に「触原色」があったかと思うが、これは皮膚感覚のことを指す。視覚の話になるが、ヒトの眼は、環境ごとに光源が異なるため、同じ物体でも色味が変化して見えるわけだが、RGBの比率がだいたい同じなので、赤なら赤、青なら青という具合で識別できるし、メディアも同じようにして記録、伝送、提示を行っているというわけだ。

触覚はなかなかそれができなかったため、舘博士らは研究を重ね、ヒトの皮膚にも複数の感覚があるのでそれができる可能性があると考察。電気刺激を用いるという方法も研究しているそうだが、グラビティ・グラバーでは物理的な刺激に限定しており、聴覚も含めた振動感覚、皮膚を押したり横に引っ張ったりして変形させる圧力感覚、そして温度感覚の3つを組み合わせて伝えるということを研究しているという。それが触原色というわけだ。

グラビティ・グラバー自体の話に戻すと、人差し指用と親指用と2つの装置があるわけだが、それぞれの装置には2つのモータが入っていて、それがベルトでつながっているのが基本構造。モータがお互いに逆向きに回転してベルトを引っ張ると指に対して垂直な力が働き、同じ方向に回転すると横方向(剪断力)が働くので、これを組み合わせると力のベクトルとなるのである。

さらに、力の大きさも変えられることから、反力や重力、立方体の中に何かが入って来たり、中で何かが動いていたりするようなバーチャルな触覚も自在に表現できるというわけだ。CGが動く通りに指先にもその触感を得られるのは、シミュレーションを行っていてその結果をCGにしてリアルタイムに投影すると同時にモータの制御も行っているからである(動画4)。

動画
動画4。グラビティ・グラバー。装着者(サイエンスライターの森山和道氏)の手につまんだ立方体とCGの立方体の動きが同期しているのがわかる

また赤いバンドの装置にのみ加速度センサが搭載されているだけなのだが(画像23を見てもらえば、モータとセンサ2本分の電源ケーブルが出ているのは赤い方だけなのがわかる)、現実世界で立方体を動かすと、モニタの中でもCGの立方体が動く。手の角度や傾きなどを検出するには普通ならジャイロセンサが必要なはずだが、これは加速度センサだけで正確に3次元的な位置座標や向きを把握しているので、その仕組みは不思議だ。これには、今回内覧会に参加していた某大手メーカーに在籍する筆者旧知の研究者の方も感嘆していたほどである。

このようにグラビティ・グラバーは今回の展示物として、開発された年代順で見たら古くなってしまうのだが、それとは関係なく非常に可能性がある技術だ。後述するTELESAR Vの装着者が装着するグローブも親指と人差し指にグラビティ・グラバーが利用されており、触覚用インタフェースとして有用なのである。

今のところは2本の指の指先だけで利用しているわけだが、これを5指に増やし、さらには手のひら全体にも広げていければ(指先と手のひらはかなり仕組みが変わってくるだろうけど)、手で物を完全につかむという触覚をデジタル化できるわけで、CGの世界とのよりリアルなインタラクションを行えるようになるはずである。とても楽しみな技術なのだ。