ヒトらしさはアンドロイドで再現できるのか?
内覧会において石黒氏は、「なぜアンドロイドを作るのか?」として、プレゼンテーション資料を用いたちょっとした講演も実施された。その中で、まず「なぜ人間型ロボットを使うようになるか?」ということに対し、前述したように、ヒトはヒトを認識すること、ヒトにとって最も理想的なインタフェースはヒトであるということを延べ、またヒトの研究や人間型ロボットの研究はヒトを理解し、ヒト同士、ヒトとロボットの関わりの原理を探求する研究だとした。
さらに、先日発表されたソフトバンクの「Pepper」(画像12)についても触れ、「PCやスマートフォンが出てきた頃を彷彿とさせる」とし、20万円弱という低価格によって普及することで、プラットフォームとしてPCやスマホのようにさまざまな使い方ができるようになり、それがまたアンドロイドを含むロボットの研究や開発を加速させるとする。よって、もしかしたらPepperがきっかけで、世の中があっという間にロボットであふれるかも知れない、とした。
そうした状況でアンドロイドを用いた石黒氏自身の研究分野については、よりヒトらしいアンドロイドを作りながら、ヒトらしさとはどこにあるのかというものを探求しているという。それは、表情にあるのか、動作にあるのか、姿形にあるのか? そういうヒトを理解するプラットフォームとして、アンドロイドを開発して研究していることに非常に意義があるという。そして、今はまだ直接的にアンドロイドが世の中の役に立っているというわけではないが、進歩して実用化されていけば、ほかのロボット同様にアンドロイドも世の中で必要とされる、社会で役立つものになるだろうとしている。
石黒氏はいくつものアンドロイドを作っていることは説明した通りだが、実際、自身にそっくりなアンドロイド「ジェミノイドHI」シリーズ(ジェミノイドHIはバージョンアップが重ねられており、現在は「HI-4」(画像13)が最新モデル)は、石黒氏の代わりに出張に行ってくれることもあって、海外への渡航回数が少し減ったそうである。こうしてアンドロイドを実際に作っていると、ヒトの心とは、意識とは、感情とはといったことを考えるようになるという。
そして今後、技術が進歩して人工臓器なども作られていくようになり、ヒトが本来の臓器をそうした人工臓器に置き換えていくと、アンドロイドとヒトとの境界が曖昧になっていく時代が来るとする。境界がなくなれば人間だけが特別なものという先入観がなくなり、ヒトとは何なのか、自分とは何なのか、自分の価値はどこにあるのかということを1人1人が考える時代に入っていくとした。そして石黒氏自身は、それがヒトの進化であり、科学技術の重要な意味であり、そうしたことを考える機会を与えるのも科学技術の大きな役割だとしている。
本来、ヒトの心も意識も感情も、わかった気でいるようになってしまっているがまだよくわかっていないものであって、ヒトの存在そのものに対してもより深く考えていく必要があるという。世の中はどんどん豊かになっていくわけだが、その一方で、世の中においてそういうチャンスをみんなで共有しながら考えていくのが、重要ではないかとした。
また、石黒氏はオトナロイドとコドモロイドに久しぶりに会っての感想は、「またよりいっそうヒトぽくなった」というもの。それに対し、コドモロイドは石黒氏を素で褒めているのかイジっているのか「先生はしばらくお会いしない間に一段とロボットっぽくなられましたね」というお返し。石黒氏は苦笑しながら、「よくそんなこといわれるんですけど、そうではないと思うんですけどねぇ(笑)」。ちなみに筆者自身は、この日の石黒氏は何だか松田優作みたいに見えたのだが、筆者だけだろうか。内覧会での、コドモロイドとオトナロイドの挨拶は、動画1と2になる。