決勝の勝利条件は、プレゼン評価をチーム以外の投票で決定

こうして3チームが進出した決勝は、今度は問題を単に解けば良い、というわけではなくなるので、ある意味、非常に難しい。課題が与えられるのでそれをプレゼンし、それを決勝に進めなかった選手と、この日のゲストであるサイエンスナビゲーターの桜井進氏(画像5)と学習院大学の飯高茂名誉教授(画像6)の2名、さらには筆者も含めた取材者と観客(+関係者)を加えた、決勝進出の9名以外のほぼ会場にいる全員で投票を行い(チームごとに複数の項目を5段階評価)、最も点数を獲得したチームが優勝となるというわけだ。

画像5(左):数学の伝道師ことサイエンスナビゲーターの桜井進氏。女性の参加者が少ないとお嘆き。画像6(右):学習院大学の飯高茂名誉教授は、「もう問題がわからない」と、少々ギブアップ気味(?)

課題は、数学の公式を題材とし、今から10年後にその公式がなかったら、世の中はどうなっているか、ということをプレゼン(寸劇、コントのような形もOK)するというもの。公式は「オイラーの等式(オイラーの公式の特別な条件で成立する式)」(画像7)、「ガウス積分(オイラー-ポワソン積分)」(画像8)、「テイラーの公式(定理)」(画像9)の3つが用意された。予選1位から優先して選べ、FUJIYAMADAがガウス積分を選択。そして、ほんわかトリオがテイラーの公式、らまぬじゃんがオイラーの公式となった。

ちなみにオイラーの等式は、指数関数と三角関数の間になり立つ、18世紀の数学・物理・天文学者のレオンハルト・オイラー(スイス生まれのロシア帝国没)が1748年に再発見したことで有名になった「オイラーの公式」において、三角関数の扱う角度θの値がπの時になり立つ特別な等式である(1714年にロジャー・コーツが最初に発見したが、証明が曖昧だったことなどが理由で、「コーツの公式」にならなかったという)。オイラーの公式は電気工学などで重要な役目を果たしているほか、物理学や数学においても重要な存在である。

ガウス積分は、18~19世紀に活躍したドイツの数学・天文学・物理学者のカール・フリードリヒ・ガウスに由来する公式で、非常に応用範囲の広い積分だ。特に物理学の世界では頻繁に使われており、同分野の大学生は頭に入れておかないといけない公式の1つとされる。

テイラーの定理とも呼ばれる同公式は、微分積分における定理の1つで、17世紀から18世紀に活躍したイギリスの数学者ブルック・テイラーが1712年に発表した公式だ。こちらは関数の近似を求める時などに利用するもので、関数を伴うようなさまざまな計算で利用されている。

画像7(左):この世で最も美しい数学の公式(物理の公式は除く)という意見が各所から聞かれるオイラーの等式。筆者には、なぜゼロになってしまうのか、不思議で仕方がない。画像8(中):ガウス積分。高校の理数系の生徒ならわかるはずの記号が並んでいるわけだが、この公式自体が何を意味するのか、何に利用できるのかを習えるのは大学なので、かなり難しい公式である。画像9(右):こちらも大学レベルのテイラーの公式。3つの中では、見ただけで数学が苦手な人なら頭が火を噴きそうな意味不明の暗号状態

そして決勝に関してだが、この時に限ってはインターネットなどで情報収集してもOKで、口頭で説明したり寸劇を行ったりするだけでなく、大判の模造紙に書き込んで資料とするなど、実は準備が結構大変(画像10~12)。決勝に進出した9名は1時間がとても短く感じたことだろう。ちなみにその間、会場では桜井氏による数学談義が行われていた。

画像10(左):FUJIYAMADAのメンバー。ガウス積分はさまざまな場所で使われているということなので、なくなると大変そうであるが、それをどう表現するか?。画像11(中):テイラーの公式を選択したほんわかトリオ。オイラーの公式に比べると実用性でテイラーの公式の方が高そうなことから選んだと思われるが、果たしてこの公式がない世界はどんな大変なことになるのか?。画像12(右):オイラーの公式に挑む形となったらまぬじゃん。我々のような凡人にはあまりわからないのだが、オイラーの公式がなくなると、一番世の中のダメージが少なそうな気がするが、どうだろうか?

そしていよいよプレゼンとなったわけだが、その模様を撮影したので、ぜひご覧いただきたい。なお、カメラの死角で張り出されたプレゼン資料などが映っていないが、それらは別途撮影した写真を用意した(画像13~17)。プレゼンおよび質疑応答は合計で10分だ。プレゼン順は、予選3位のらまぬじゃんからスタートして、2番手がほんわかトリオ、FUJIYAMADAが最後となっている。

動画
動画1。らまぬじゃんのプレゼンの様子。オイラーの公式をいかに扱ったか?
動画2。テイラーの公式を題材としたほんわかトリオは、ショートコント仕立てに。その出来映えやいかに?
動画3。ガウス積分を題材にしたFUJIYAMADAは正統的なプレゼンを展開

画像13(左):らまぬじゃんのチーム名は、18~19世紀に活躍したインドの数学者シュリニヴァーサ・アイヤンガー・ラマヌジャンにちなんだもの。プレゼン冒頭で登場するラマヌジャンの公式がこちら。画像14(右):オイラーの公式がなかったら、まずベストセラー「博士の愛した数式」(小川洋子著・新潮社)がグダグダで数学ブームがこなかった?

画像15(左):さらにオイラーの公式がないことによる影響。今大会の参加者が異端児で、数検も3級合格者が精一杯?。数学ビジネスはなり立たず、ポアンカレ予想を解決したロシアの数学者グリゴリー・ヤコヴレヴィチ・ペレルマン博士が引きこもらなかった?。画像16(中):そして最終的には今大会も開催されないだろうから、参加者が出会えなかった…かも知れない。ちなみに、筆者としては講談社で行われたことを考慮して、西尾維新著の人気小説「終物語」の上巻の構成が違っていたはず、とつけ加えておきたい。画像17(右):ほんわかトリオは特にプレゼン資料を貼らなかったのでなしで、こちらはFUJIYAMADAの資料