DHAの摂取と頭がよくなることに関係性は本当にあるのか?

では、こうした問題行動を起こす子供に対しDHAを多く摂取させるとどうなるのか?。2005年の「発達性強調運動障害児を対象とした脂肪酸の食事補給に関する無作為化対象試験」という論文で、普通学校に通う協調運動に特定の困難が見られる学業不振児童117名(対象の40%が読みと発音(スペリング)が年齢として期待される習熟度に達していない、30%超が臨床的ADHD型の症状のカテゴリに含まれる)を対象にした研究では、魚油とプラセボの摂取を3カ月にわたって行ってもらったところ、魚油を摂取した群では、正常児に期待される上達と比べて、読み能力は通常の速度の3倍超、スペリング能力は2倍超の上昇が見られたとするほか(プラセボ群では、読み能力は通常速度の1倍、スペリング能力は0.5倍未満の上昇となった)、ADHD型の症状も軽減されることが確認されたという。また、2011年の研究でも魚油由来のオメガ3がADHD症状の軽減に有効であることが報告されている。

プラセボ群との比較では読み書き能力の上昇率が高いことが示されたほか、ADHD型の症状を軽減できることも確認された

ただし正常な7~9歳の子供ではどうか、という試験結果が2012年のPLoS Oneに報告されている(正常能力ではあるものの、読み能力は33パーセンタイル未満)。こちらはというと、対象360名を海藻由来DHAを1日600mg摂取する群とプラセボ群に分けて16週間摂取してもらい、読み、行動(ADHD型の症状)、作動記憶(ワーキングメモリ)にどの程度の変化があったかを調べたもので、一定の効果はあったものの、統計的な有意が見られなかったという。ただし、下位20%ないし10%の集団に限ると、DHA摂取群は下位20%で20%向上、下位10%だと50%の読み能力向上が確認されたという。

ある程度平均的な能力を有する子供ではDHAの摂取の有無で有意性が確認されなかったが、読み能力が低かった人を対象にすればするほど、高い上昇率となっていることも確認された

また、2014年3月の最新の研究としては、395名の子供を対象に血中DHA濃度と睡眠時間の相関関係を調べた論文が発表されているが、こちらは、血中DHA濃度が低いと臨床的な睡眠の問題が多くみられたが、DHAの補給(600mg/日)により、そうした睡眠の問題が有意に改善され、プラセボ群と比べて睡眠時間は約1時間延ばせることが確認されたという。

血中DHA濃度が高いと睡眠時間が伸びる傾向が示された

「脳に十分な栄養が行きわたり、休息を十分に取れれば、学習はずっとスムーズになる」と同氏は語る。そのためにもEPAやDHAの摂取が重要になってくるわけだが、ではどの程度を摂取するべきなのか(ただし、植物由来の短鎖オメガ3には長鎖同様の健康効果はないので、魚などの長鎖オメガ3を摂取するべきだとしている)。国際的科学機関の推奨値は、一般集団(心血管の健康)では1日当たり500mg未満、抑うつやその他の精神健康の状態では1000mg未満、先進国の多くの標準的な摂取量が150mg以上で、英国・ドイツでの推奨量は250mg、フランスが500mg、ノルウェー450mg、そして日本では1000mg(1g)以上が望ましいとなっているが、日本の実際の摂取量は目標値よりも350mg以上少ないと言われており、政府もこの問題について認識しているが、同氏は「海外が低いのだから、といってそれを迎合するような動きは採るべきではないし、絶対に引き下げるべきではない」と強い口調で、むしろ目標値にどうやって実際を引き上げていくかを議論していくべきだとした。

DHAを摂取することで、ある種の子供に問題行動や学習の改善効果をもたらすことが可能となる

なお同セミナーでは、管理栄養士・料理研究家の小山浩子氏がオメガ3とオメガ6のバランスとして、7:3が良いとし、オメガ6は普段の生活で十分に摂取できているので、オメガ3を意識して子供のおやつなどに取り入れて行ってもらい、できれば子供と一緒におやつを作るといった食を通しての思い出作り、心の栄養の方の充足も意識してもらえればとして、マグロのツナやサクラエビ、イカそうめん、さくらでんぶ、ひじきなどを活用したおやつの紹介を行っていた。

管理栄養士・料理研究家の小山浩子氏が考案したさまざまな魚介類を用いたおやつレシピとその実物。おやつは、パッと見ただけでは、そこに魚介類が用いられているとはわからないものが多い