――TVシリーズで確立した「バディ」の絆が危機にさらされる…というのが今回のRisingのストーリーの軸となっていますが、絶大な人気を誇っているバディの単純な活躍ではなく、その関係の危機を描くシナリオ展開となったのは何故なのでしょう?

TVシリーズでは一貫してふたりの距離感にこだわって書いてきて、ひとつのゴールが25話にあります。でも、あの時すでに虎徹が能力を使える時間は(通常時は5分間能力が使えたものの)、わずか1分まで減退してしまっています。そんな彼が、自分の横にいるバーナビーという存在が、自分に合わせてくれているようで後ろめたさを感じて、「本来彼はもっと上に行く人間なのに、自分のせいで……」みたいに自分を責めて、みずから身を引くこともするのかもしれない……など、いろいろと構想を膨らませていく中で、"虎徹とバーナビーがコンビでなくなったとしたら、どんな話になるのか"というのが、自分の中で一発目に出てきたアイデアだったんです。

『The Rising』では、虎徹とバーナビーの関係性の変化が大きな軸となっている

――虎徹が仮にそうした思考の上で身を引いたとして、バーナビーはどう行動すると想定して物語を練っていったのでしょうか?

虎徹から言われただけでは彼は受け入れないと思いました。ただ、何か"お膳立て"とも言える状況の変化があって、さらに本人から「離れて活動するのもいいんじゃないか」と言われた場合、縋って止めるような男ではないと考えました。

――バーナビーの新たな相棒として登場するゴールデンライアンですが、俺様キャラということで、虎徹とはタイプが異なるヒーローのように感じます。虎徹とはここが違う、あるいは逆に密かな共通点などあれば教えてください。

例えば、バーナビーのバイクに接続できるサイドカーのエピソードがあります。虎徹はそこに乗る時、「何だよ、俺がサイドカーかよ」って嫌がるのですが、ライアンは「楽だからこっちでいいや」と言って特に嫌がるそぶりを見せません。こういったとらえ方の違いなどで差を出しているつもりです。

バーナビーの相棒が虎徹からライアンになることで生まれる"差"も見どころ

また、ライアンは自己顕示欲が強い男なので、コンビでありながらも自分がどう見えるかというのをすごく主張するんです。それは虎徹との違いを際立たせてもくれますし、TVシリーズ冒頭のころの生意気でクールなバーナビーの姿を想起させる存在として、俺様キャラという立ち位置が作用しているのではないかと思います。

――新キャラのライアンをはじめ、キャラクターの容貌などについても脚本の西田さんから指定を行った形ですか?

いえいえ、僕の設定からそのまま作るのか、それとも捻りを加えるかは桂(正和)先生にお任せしたほうがいいかと思ったので、そのようにしました。

『The Rising』から登場するライアン・ゴールドスミス(ゴールデンライアン)

――ずっとシナリオライティングのことを考えている中で、作業の気分転換となる趣味やジンクスなどはありますか?

ずっと車で移動しているので、そこで大声で歌うことですかね。徳永英明とか、中村一義とか。でもまあ恥ずかしいですが(笑) 何だろう、でっかい声を出すとやはりすっきりします。セリフのことでも、やはり声に出すというのは大切かもしれません。

――作中で多くの印象的な言葉をつむいできた西田さんですが、『The Rising』の劇中で注目してほしいキーワードがあれば、TV放送中にご自身のブログで行われていたような形でお教えいただけますか。

「ピクルス」ですね!

――最後に、この記事を読んでいる、"これから何かを作りたい"と思っている人に対してメッセージをいただけますでしょうか。

そんなそんな、本当に何もすごいことは言えないですよ。えらくなったら使ってください、ということくらいしか言えません(笑)。制作の場でご一緒できる日を楽しみにしています。

――ありがとうございました。

『劇場版 TIGER & BUNNY The Rising』

■作品紹介
一度引退を決意したものの、ヒーローに復帰したワイルドタイガーこと鏑木・T・虎徹とバーナビー・ブルックスJr.。"マーベリック事件"によりオーナー不在となったアポロンメディアは、新たにカリスマ実業家のマーク・シュナイダーを新オーナーに迎え、会社の立て直しを図る。その一環として、シュナイダーはバーナビーを1部リーグへ復帰させるが、その相棒は彼がスカウトした新ヒーロー・ゴールデンライアンだった。バーナビーとゴールデンライアンの新コンビの活躍を見た虎徹は2部リーグでの自身の活躍を誓うが、彼には厳しい現実が待っていた。時を同じくして、シュテルンビルトでは街に古くから伝わる女神の"影"があらわれたことをきっかけに、奇妙な事件が起こりはじめていた。果たしてこの事件の真の"目的"とは――謎に翻弄されるヒーローたちにさらなる危機が襲いかかる。



■CAST・STAFF
<CAST>
平田広明 / 森田成一 / 中村悠一 ほか
<STAFF>
企画・原作:サンライズ / 監督:米たにヨシトモ / 脚本・ストーリーディレクター:西田征史 / キャラクター原案・ヒーローデザイン:桂正和 / 配給:松竹/ティ・ジョイ