足し算からかけ算の発想へ
それでは何故、このような動きが生まれるのだろうか?ソーシャルメディアの活用が盛んになり始めた2012年と比較して何が変化しているのかを尋ねると、十字氏は次のように答えた。
「2012年は、言ってみれば、+(プラス)ソーシャルという考え方が主流でした。Webやメール、DM、カタログ、モバイルなど数あるチャネルにソーシャルという1つのチャネルをプラスするという足し算の発想です。
足し算の段階では、ソーシャルを導入することで、ファンを獲得、拡散を図るという指標がほとんどでした。実際、診断コンテンツを実施し、いいね!をさせるキャンペーンが目立った時期でもあり、何のためにいいね!を獲得するのか、ファンを増やしてどうしていくべきかの目的を持っていない企業が多かったと思います。
2013年になると、企業が運用するアカウント数や、ファン数も増えてきたことで、ファンの獲得やいいね!の獲得という数字的な物だけではないことに気づき、企業と生活者がどんな関係性を構築していくべきなのか"本質の目的" を意識する必要が生まれ、×(クロス)ソーシャルというという掛け算の発想へと変わりだしてきています。
つまり、流行っているからソーシャルメディアに取り組むのではなく、企業は生活者ときちんと向き合っていこうという姿勢の中で、ソーシャルメディアを活用する必要が出てきたのです。
そんな中、ソーシャルメディアを通じて生活者に対し有益な情報の配信から、より良い関係性の構築までをする一方で、より多くの生活者が情報を探しに来るオウンドメディアには、それらの情報が掲載されておらず、生活者との関係性を活かせていないという矛盾も生まれてきています。
生活者が情報を探す際に検索エンジンから訪れるのは、やはりオウンドメディア。ソーシャル時代のオウンドメディアの役割は何か?そうしたWebコミュニケーション全体を整理した上で再定義される時期にきていると言えます。」
例えば、炭酸飲料、酒などさまざまなジャンルで複数のブランドを展開している飲料メーカーであれば、キャンペーン、イベント情報、商品に合うレシピ紹介などを、そのブランドごとのソーシャルメディアで配信しており、ソーシャルアカウントが増え続けることで、運用管理の手間やコストが増え続けていたり、特定のブランドに興味を持った生活者にほかのブランドをすすめることが難しいといった課題がある。
近年、ソーシャルメディア運用がメインになり、オウンドメディアの更新に手がまわらなくなったという声が増えてきているのも、そうした課題からだろう。
一般企業を例に挙げると、リクルート用のFacebookなどで社内活動や、社員紹介などの企業情報を都度更新しているが、オウンドメディアに更新していないため、企業に興味を持つ学生が、その企業のサイトに訪れても、募集要項しか情報が得られないといったケースもある。
オウンドメディア本来の存在価値が薄れ、そこで展開するはずだった施策が実行できないといった本末転倒の事象が生まれているのである。
そんななかデジタルマーケティングに一石を投じたのが、同社と博報堂DYホールディングスの横断組織「博報堂DYグループ・ソーシャルメディア・マーケティングセンター」が昨年11月に開始した新サービス「Social Gallery」だ。