日本のロボット開発に欠けているもの

以上で林業ロボットに関する講演は終了。以下は質疑応答となり、世界の中で日本のロボット開発はどこが優れていてどこが足りないのか、どういう部分を開発して勝負に出ればいいのか、どこがコアなのか、という質問が上がった。

これに対して小菅教授が回答。日本は、もちろんFAロボットは世界的にもシェアを占めており(アジア圏の国などに猛追されてシェアが減ってきてはいる)、つまりすでに市場が育っているところに対しては非常に強いという。いわゆる、すでにあるものを日本に持ってきてブラッシュアップしていくというのは、日本が得意としてきたことである(最近は、アジア圏がその手法で日本に猛追しているわけだが)。また、従来のものが強いということは、フレームさえあれば新しいものを作れるだけの技術は日本にあるということだ(大学に関しては、小菅教授が個人的に感じているが、先のもう1つ先ぐらいを研究しているのだという)。

ただし、今の日本が持っているロボットの要素技術を集めれば、どんな分野のロボットでも作れるかというと、そう勘違いされているところもあるのだが、それは違うという。農業なら農業特有の問題があり、それを解決するためには、従来の要素技術にさらに独自の問題を解決するための技術の開発が必要になる(画像34)。また、今ある技術ではまだ力不足なので、もっとその技術を突き詰める必要がある場合もあるといった具合だ。もしくは、新しいものを生み出そうとすることで、新しい学問が生まれてくる可能性もあり、この3点を正しく理解することで、どんな分野でもロボットを開発することは可能になるとする。

画像34。要素技術の組み合わせだけでは各分野の専門的なロボットは開発できない

そして今の日本に足りないものがあるとすれば、いかにリアリスティックなシナリオを、きちんと研究者なら研究者に与えて、リアリティのあるシナリオの中で、いかに必要な技術を見つけて研究するか、ということが非常に大事だという。

米国が強い理由の1つには、DARPA(Defense Advanced Research Projects Agency:国防高等研究計画局)(画像35)の存在があり、同機関が優れているのは、現実的なシナリオを設定して大学や研究機関、企業などに新技術を開発させ、既存技術をブラッシュアップさせ、具体的に使えるものにしていくノウハウを持っているところだという。ちなみにDARPAは米国政府直属の軍事系研究機関であり、驚異的な科学技術を他国が発見したり開発したりしないよう米国がリーダーシップを取ることを目的とし、そうした最先端科学技術を軍事に転用することも大きな目的としている。

DARPAはロボットに関しても力を入れており、現在はレスキュー的な題材の「DARPA ロボティクス・チャレンジ(DRC)」(画像36)を、2013年12月20日・21日にトライアルとしてフロリダのサーキット「ホームステッド・スピードウェイ」で一般公開で行う予定だ。日本からは、東京大学情報理工学系研究科・情報システム工学研究室(JSK)からスピンオフした株式会社SCHAFTが実機部門、TeamKがバーチャル部門への参加を発表している。株式会社SCHAFTの機体は、産業技術総合研究所や川田工業が開発したHRP-2 PROMETをベースとした2足歩行だ。ちなみに、ライバルチームの多くは米国の大学、NASAの研究部門など、かなりの強敵揃いである。

画像35(左):DARPAの公式サイトのトップページ。画像36:DRCの公式サイトのトップページ

小菅教授は、DARPAは非常にうまく回っているため、その点は非常にうらやましいという。またこのような組織が日本には存在しないため、リアリティの薄い研究が多いのが日本だという。小菅教授や菅野教授はリアリティな研究を求めていることから、現場によく足を運ぶわけだが、そういう行為はサイエンティフィックではないという見方をされてしまうところも、日本の難しいところではないかという。ともかく、リアリティのあるシナリオに沿って研究開発を進めることで、新しいロボットの技術につながっていくはずだとした。