普段は見られない「夜の美術館」を体験

国立新美術館はこの日、特別プログラムとして22時まで開館を延長。開催中の「アーティスト・ファイル2013」展と「カリフォルニア・デザイン 1930-1965 ―モダン・リヴィングの起源―」展が入場無料で公開された。普段なら無人になる時間に多くの人が行き交う美術館は、それだけで特別な空間に見える。新進気鋭の作家の作品と、温故知新とを見ることができる企画展もまた、アートの海の道しるべとなる内容だった。

国立新美術館は特徴的な曲線を持つ建築だが、夜にはそれが波のように浮かび上がる。昼間には、関連イベントとしてワークショップやコンサートなども開催された

アートの海に点在する"港"

そのほか、六本木ヒルズの森美術館や東京ミッドタウンのサントリー美術館、21_21 DESIGN SIGHTも、開館時間を延長し、割引料金で開館された。また、拠点となる施設だけでなく、それらをつなぐ街中でも、「アートポート六本木」と題して様々な展示やイベントを展開。街を巡りながら多様な体験を得て、また次を目指す。アートの海を回遊する来場者にとっての"港"となるプロジェクトだった。

岩井優「ホワイトビル・ウォッシング」

柴田祐輔「クリーニング・ディスコ」

工事現場に建てられたスクリーンに映るのは、カンボジアのスラムで実施された住民とのビル清掃の記録映像。背景にそびえる森タワーと、映像が伝える現実との対比、その両方を包み込む夜という舞台装置が、ひとつの作品として見る者に迫る

街角のクリーニング店をディスコにするパフォーマンス。店の中には誰のためでもなく踊りまくる"ボディコン"ギャル。来場者は無視も参加もできないまま呆然とそれを眺め、同じ思いであろう人たちの間に発生した薄い連帯感を持ち帰る

北澤潤「サンセルフホテル 六本木ショールーム」

茨城県取手市にある団地で行われている、空き部屋を使った"ホテル"プロジェクト。住民と共にホテルのインテリアやレストランのメニューを作るなど、地域を基盤にした活動が、今回のイベントコンセプトとも通底する

これらの作品以外にも、拠点施設と周辺各所で展示やパフォーマンスなどが数多く行われた。歩くたびに、街の至る所で、何かしらの作品を目にする、まさにアートの溢れる夜となった。近隣地域では20件近いアートギャラリーがオープン時間を延長。また、営業時間の延長やオールナイト営業でイベントに協力する飲食店やショップも多く、歩き疲れた来場者で賑わっていた。

関口光太郎「デザインあ展 特別オブジェ」

21_21 DESIGN SIGHT「デザインあ展」

日比野克彦「動きたい水灯台・動かない土灯台」

六本木アートナイトは、それぞれの作品だけでなく、ひとつのイベントとして非常に完成度の高いアートだったと言える。単にアーティストを集めて作品を展示しただけではない。明確なテーマを持ち、率先して形にし提示した、今回のアーティスティックディレクター・日比野克彦の役割は大きかっただろう。そのテーマを正面から受け止めた来場者の心には、あの灯台の灯りが長い間残っていくはずだ。

TANeFUNe「種は船~航海プロジェクト」

「アーティスト・ファイル2013」展出品作家・國安孝昌による屋外特別展示