各班の研究内容や目標
それでは、各班の研究内容や目標についてだ。まず感覚班は、「核酸ナノ構造を活用した多元分子情報変換デバイスの創成」が掲げられている。目的とする入力因子の検出・増幅・変換を同時かつ1分子レベルの高感度で実現できるナノ分子デバイスを構築することが目標だ。
具体的には、種々の入力因子(核酸、タンパク質、光、pH)を検出し、それをRNAからなるシグナル増幅回路に連結させる(基盤技術は開発済み)。さらに、増幅したRNAシグナルを任意の核酸配列(出力)へと変換する「人工情報変換デバイス」を作成する。これにより、目的の入力に応答して自律的に任意の核酸配列を出力する分子デバイスを実現するというわけだ(画像13~16)。
画像13。感覚班の全体像。シグナルの「センシング」、シグナルからの「ノイズの除去」、シグナルの「増幅」、下流のシステムに合わせて「情報変換」を行うというものだ |
画像14。出力はDNAやRNAなどで行われることが考えられている |
画像15。センサとして考えられている、DNAオリガミによる膜貫通チャネルの構築法 |
画像16。センサでとらえたシグナルを変換して知能班の情報処理回路や、アメーバ・スライム班の担当分野へと渡していくのが感覚班のターゲットだ |
任意の入力因子を検出するため、2つの戦略を活用する。1つは、ノイズの大きな細胞内環境を想定し、目的の入力因子を高感度で検出し、任意のRNA配列に変換する人工RNAナノスイッチを用いる方法。
もう1つは、「DNAオリガミ」を活用し、異なる入力因子をナノサイズの空間分解能で同時かつ独立にセンシングし、結果を任意のRNAに変換する方法だ(画像15)。さらに、RNA人工増幅回路を拡張し、出力核酸配列を自律的に供給する方法を開発すると共に、マイクロ加工で作製した微小反応場によるモデル実験系を構築するとしている。
また、この分子情報変換デバイスの動的挙動の少数分子系シミュレーションも行う。開発したナノ情報変換デバイスをリポソーム膜内に組み込み、膜の外側で検出した入力情報を、任意の核酸配列の出力として膜の内側にリリースできるようにすることで、知能班やアメーバ班とのインタフェースを確立する計画だ。
知能班は、「知能分子ロボット実現に向けた化学反応回路の設計と構築」を掲げる。同班は、分子ロボットの知能中枢を担う、核酸をベースとした「化学反応回路」の設計・構築に取り組んでいく(画像17)。
そのため、高速・安定に動作する(AND、OR、NOTなどの)基本演算素子を開発すると同時に、過去の入力情報を記憶して、その記憶と現在の入力に基づいて次の出力を決定する計算機構(状態遷移機械)を実現するとしている(画像18・19)。
画像18。化学反応回路構築技術の現状。記憶を持たない「組み合わせ回路」の場合の現状と問題点および課題 |
画像19。化学反応回路構築技術の現状。有限の記憶(状態)を持つ「順序回路」の場合の現状と問題点および課題 |
具体的には、核酸の光連結反応や枝分かれ分子の形成技術を用いて高速に演算できる新規分子素子を開発し、「DNAポリメラーゼ伸長反応」を利用した核酸分子による状態遷移機械を実現する計画だ(画像20・21)。
画像20。知能班固有の分子デバイスその1。「DNAポリメラーゼを用いた1分子状態繊維機械」および「DNAポリメラーゼとNicking Enzymeを用いた出力機械」について |
画像21。知能班固有の分子デバイスその2。多様かつ高性能な光応答塩基群について |
また、反応回路の確率的自己安定性を自律分散システム理論により解析し、安定な回路を設計。さらに、環境の変化に適応して機能を自己改変できる学習回路システムの設計法を開発すると共に、感覚班およびスライム班とのインタフェースを確立するとしている(画像22~24)。