化学とロボット工学の境界に生まれた新学術領域「分子ロボット工学」
日本は合成化学、超分子科学、タンパク質工学、高分子化学、DNAナノテクノロジーなどの化学分野では世界トップクラスの技術力を持つ。そしていうまでもないが、計算機科学、制御工学、自律分散システム、電子デバイス光学、創発システム理論といったロボット工学に属する各種技術も非常に得意とする(画像2)。
化学とロボット工学の異なる学術分野の境界に形成される新学術領域が分子ロボット工学というわけだ。分子ロボット工学は、化学方面からのアプローチの「プログラマブルな分子デバイス・システム」の実現と「生命現象を再現・凌駕する人工分子システム」の実現、ロボット工学方面からの「分子ロボティクス」の基盤創出、「自己組織化と学習・適応を併せ持つ自立性」の実現の4つを目指していくのである(画像3)。
画像2。化学とロボット工学を融合させて分子ロボット工学を誕生させ、現在の人類的問題解決の糸口となることを目指していく |
画像3。化学とロボット工学という一見するとかけ離れた分野に見えるが、その境界上に分子ロボット工学が存在する |
基盤的な組織として、計測自動制御学会システム・情報部門の調査研究会として、2010年3月に「分子ロボティクス研究会」が発足して活動が進められているわけだが、今回の新学術領域はそこからの延長された形といっていい。
ロボットの定義は、「『センサ』により外部環境から情報を取得し、『情報処理回路』によりその情報を判別し、その結果に応じて『モータ』や『アクチュエータ』などを動作させて環境に対して何らかの働きかけを行うもの」とされる。また、システムを環境とは区別し、各種要素を一体として関連づけるための『ボディ』も必要だ。
分子ロボットは、その4要素をすべて分子レベルのデバイスで実現されたシステムである(画像4)。そのため、感覚、知能、運動、構造といった分子ロボットに必要な要素技術を開発することに加え、これらを連携させ、統合させる技術の開発も必要となる。
これらの部品の組み立てはすべてボトムアップな自己集合・自己組織化により行われる必要があり、また動作のプログラムや制御は、すべて化学反応系のプログラムと制御により実現する必要があるというわけだ(画像5)。