表面的な動きを原動力とともにデザインする

中村勇吾は、さまざまな仕事を通して、ウェブデザインをまったく新しい水準に引き上げた異才。今回のプレゼンテーションでは、自身が手がけてきた多くの実践例を示しながら、“動き”における原論を縦横無尽に語った。

Guest 02 中村勇吾(tha)

デザイナー/映像ディレクター。東京大学大学院工学部卒業。多摩美術大学客員教授。1998年よりインタラクティブデザインの分野に携わる。2004年にデザインスタジオ「tha ltd.」を設立。以後、数多くのウェブサイトや映像のアートディレクション・デザイン・プログラミングの分野で横断/縦断的に活動を続けている。主な受賞に、カンヌ国際広告賞グランプリ、東京インタラクティブアワードグランプリ、TDC賞グランプリ、毎日デザイン賞など


「たとえば、木がそよいでいる映像があったとします。それを見た人は、直感的に風が吹いていることがわかるはずです。つまり“木の葉が揺れている”という動きは、“風が吹いている”こととセットになっている。だから、表面的な動きをデザインするということは、その裏側にある原動力をきちんと認識できている、ということでもある。僕自身は、表面的な動きと原動力の関係性そのものをデザインしていると考えています」

中村は1999年にモナリザの顔を変形させるFlash作品を発表している。これは、我々のちょっとしたふるまいを増幅し、その動きの面白さを体感させるアニメーションだった。あるいは、ポインタで仮想の3D空間に帯状のラインを描いていく作品。自分の手でマウスを動かすことで、描かれるラインの動きの背後に、それを統御しているルールの存在を感じとることができるというものだ。現在に至るまで、中村が試みているのは「アルゴリズムの次元におけるコラージュ」だ。

「Monalisa Nervous Matrix」(1999) 1から9のテンキー入力に、3×3のマトリクスが反応し、モナリザの顔が膨張する

「〈dropclock〉や〈clashclock〉など、時計をモチーフにした作品をいくつも作ってきました。時計は、アルゴリズム的なものの原初的なかたちであると同時に、誰もが知っているものでもある。いわば基準点のような存在です。そこに異なる文脈のものを組み合わせたらどうなるか。新しいバランス、新しい距離感が生まれます」

時計をモチーフにしたスクリーンセーバー「dropclock」(左)と「clashclock」(右)。いずれもウェブサイトから購入可能。http://scr.sc/

既知のものと未知のもの。その組み合わせが、いままでに感じたことがないような知覚体験を生み出すのだ。

では、アルゴリズムの次元におけるコラージュが行われる場所で、文字はどのような役目を果たすのか。中村は、ウェブ環境の文字を、改めてふたつの文脈に整理し直す。ひとつは形態としての側面、もうひとつは内容としての側面である。

「〈ecotonoha〉は、枝の先をクリックすると、文字が入力できる仕組みになっています。形態としては、緑色の文字が重なり合っている。それが葉っぱの重なり合いに見えるわけです。内容としては、旧来のツリー型掲示板(スレッド型掲示板)を、ツリー(樹木)として表現しています」

「ecotonoha」では入力した文字がツリー構造に重なり合い、次第に大きなツリー(木)が生まれるしくみをデザインした https://www.ecotonoha.com/index.html

中村にとっての文字とは、いわく「形態と内容の結節点」であり、それゆえ、中村におけるタイポグラフィとは「その両面をまたぐ関係操作」ということになる。

「FPMの公式サイトは曲名をクリックすると楽曲が視聴できる仕組みになっています。このとき、曲名を表す文字が音の波形で波打つ仕掛けを施しました。ストロークフォントの中心線に動きをプログラミングすることで、フォルムとアルゴリズムを一体化したフォントです。また、〈Wanderwall Screen Saver〉では作品写真の色味を拾い、「Wanderwall」という英字を描いている、というか、縫っているような動きを与えています」

FPMのウェブサイトでは、中心線で構成されたストロークフォントに波形をプログラミングした。http://www.fpmnet.com/

「Wanderwall Screen Saver」は写真の色を糸のように引き出し、それを「Wanderwall」の文字として紡ぎ上げるスクリーンセーバー。http://wonder-wall.com/scr/

形態と内容の交差点としての文字。そこから中村は、デザイニングにおける新しい構図を開拓しようとしているのだ。