宮崎光弘はデザイン誌『アクシス』のアートディレクターとして活動するとともに、アクシスデザインを統括し、外部のさまざまなプロジェクトをプロデュースしている。『アクシス』がオリジナル書体・アクシスフォントの使用を開始したのは2001年のこと。当初は雑誌専用だったが、現在は市販され、一般にも流通している。きっかけとなったのは、ドイツのデザイン誌『form』。1995年に誌面をリニューアルした際、フルティガーをベースにした専用書体を開発した。雑誌全体をオリジナル書体で統一するということに、宮崎は大きな刺激を受けたという。

Guest 02 宮崎光弘

1957年東京生まれ。1986年アクシスに入社、現在はAXIS designを統括。雑誌や書籍、パッケージ、Web、インターフェイス等、さまざまなジャンルで活躍するほか、リサーチに基づいた戦略的なデザインプロジェクトを多く手がける。
多摩美術大学情報デザイン学科教授 http://design.axisinc.co.jp/


ウェブでの展開も見据えて作られたアクシスフォント

「人間で言うと、フォントは『声』のようなもの。ですから『アクシス』の声になるような書体を生み出したかった。タイププロジェクトの鈴木功さんに、和文書体の設計をお願いし、『ありそうでなかった書体』を模索しました」(宮崎)

『アクシス』は海外の読者も射程に入れている。英文併記のため、本文は横組みだ。アクシスフォントも和文と欧文を同時に開発していった(なお、欧文書体の設計はライノタイプの小林章が担当)。

「ありそうでなかった書体とは何か。アクシスフォントの大きな特徴は、極細のウェイトがあること。そしてかたちがシンプルで、その分、データサイズも軽いことです。つまり、雑誌だけでなく、ウェブでの展開も容易になります」(宮崎)

NTTドコモのサービス「iコンシェル」でもアクシスフォントが使用されている。携帯電話の場合、小さな画面での視認性が求められるが、その点、アクシスフォントには長体の和文フォントが用意されているので、モニタのサイズが小さくても、相応の情報量を盛り込むことができる。

アクシスフォントは全7ウェイトで展開。図のBasicのほか、横幅が約80%で設計されたCondensed、約50%で設計されたCompressedがある。イタリック体等を収録した欧文フォントも、Basic、Condensed、Compressed、それぞれリリースされている。
https://www.axisfont.com/

宮崎によれば、雑誌はランダムアクセスが可能なメディア。ぱらぱらめくるだけで、なかには、読まれることのないページもあるだろう。読まれない部分も含め、書体の選択が雑誌全体のトーンを決定しているのだ。

「ですから、開発中は、冗談半分、本気半分で、文字を組んだだけで、知的な印象が2割増しに見えるような書体、ということを意識していました(笑)」(宮崎)

一方、オンスクリーンメディアにおいては、文字の「現れ方」や「消え方」が重要ではないかという指摘を行い、その実践として、アクシスデザインが手がけた廣村デザイン事務所のウェブサイトを例示。さらに、オンスクリーンメディアでの「見え方」をコントロールするためのアプローチとして、開発中の次世代フォントを発表。会場を湧かせた。

「2011年『AXIS』誌の30周年号でアクシス明朝を展開する予定です。大きな特徴は、従来の『ウェイト』という考え方に加え、『コントラスト』という概念を加えたこと。ウェイトとコントラストのマトリックスで、現状、30タイプのバリエーションを考えています」

ウェイトに加え、コントラストという概念を加えたアクシス明朝。図は、ウェイトがH、コントラストが1。縦画と横画の差は、コントラスト1がもっとも大きく、コントラスト5がもっとも小さい。上図のデモFlashは、以下のサイトで見ることができる。
http://www.typeproject.com/demo/axis_mincho.html

アクシス明朝EL(左)とH(下)。白は低コントラスト、グレーは高コントラストを示している

印刷物と異なり、オンスクリーンメディアでは、ユーザーの働きかけによって、さまざまなインタラクションが可能となる。次世代フォントの構想も「ひとりひとりに最適な書体を提供することができるのではないか」という問題意識に支えられている。