新しいユーザー経験を生み出すデジタルコンシューマ機器のトレンド

まず小屋氏(Photo02)より、Rambusの製品とテクノロジのポートフォリオの紹介があった。ただし、その内容はXDR/XDR2に大きく偏ったものである。もともとRambusは高速のデータ伝送をメインとする会社であり、RaSERやFlexIOと呼ばれる汎用のインタフェースは同社の製品ポートフォリオの1つの柱である。

Photo02:ラムバス マーケティングマネージャの小屋義人氏

もっとも同社のそもそもの生い立ちは新しいMemory Interfaceを開発するところから始まっており、初代のRDRAM(Rambus DRAM)からConcurrent RDRAM、Direct RDRAMと進化として、4世代目がXDR、5世代目がXDR2となる。ただし同社の提供するMemory SolutionはDRDRAMやXDR/XDR2だけではなく、JEDEC標準のDDR2/DDR3のMemory I/F IPもまた販売を行っている。

もっとも汎用I/Fに関しては、PCIe 2.0とか最近だとUSB 3.0なども出てきているし、これをサポートするI/F IPも数多く存在する。Memory I/Fはもっと多くのベンダがさまざまなIPを販売しており、その意味ではRambusだけで提供できるFeatureはそれほど多くない(確かRDF2007のときに、RambusのDDR2/DDR3 I/FにはFlexPhaseが組み込み可能で、これを使う事でDeSkewの効果を得られるという話を聞いたことがあるが、こうしたFeatureがそう多く存在するわけではないだろう)。

その一方で、汎用のDDR2/DDR3の性能は頭打ちの傾向が明確に見えているし、DDR3の次については相変わらず議論が空転している(一応JEDEC内ではSerial Memoryの方向に向かってはいるようだが、まだ確定するまでには大分時間が掛かりそうだ)。こうした状況を見据えて、ポストDDR3世代にXDR/XDR2で一定のシェアを築きたいというRambusの希望がわかりやすく説明されたセッションであった。

実際技術的に見れば、XDR/XDR2はほぼDDR3の次世代に相応しいスペックをもっている。強いて言えば、アプリケーション(例えば次世代GPU)から見た場合に、アクセスパターンの最適化とか性能の最適化の方法論はDDR1/2/3などとまた変わってくる筈であるが、それは大きな問題ではない。問題は「コモディティでは無いメモリを使うことへのリスク」をどう判断するか、というあたりであろう。

Elpida DRAM Solutions to Advanced Digital Consumer Electronic Systems

このコモディティで無いメモリを使う事に対する解を、遠まわしの形で示唆したのがエルピーダメモリ デジタルコンシューマDiv.テクニカルマーケティングGr.エグゼクティブマネージャーの吉冨安雄氏によるエルピーダのロードマップである。

ご存知の通りエルピーダはXDR/XDR2メモリの生産パートナーでもあり、またそれとは別にコモディティで無いメモリに力を入れているベンダでもある。今回のセッションも、汎用のDDR2/3やその後に続くLV-DDR3がメインではなく、携帯機器向けのMobile RAMがメインであった。具体的にはMobile RAMを利用する事で、なぜ低消費電力が実現できるかを示したものであるが、これを通して間接的に主張されたのは、コモディティの製品を使う限り、ある程度以上の消費電力向上は実現できないという事であった。氏はまたXDRにも若干言及しており、より高いビットレートが必要となるシーンでは、やはりXDR/XDR2の様な製品を使わない限り解決が難しい事を示唆していた。

またデジタルコンシューマ機器向け製品のソリューションの図の中に、M-XDR(Mobile XDR)が「?」マーク付きながら掲載されていたのもちょっと印象的であった。Mobile XDRそのものは2010年2月に発表されているが、これはあくまでもアーキテクチャレベルの話であって、まだ実際の製品は存在しない。エルピーダは状況次第ではMobile XDRの製品化を手がける可能性があることを示唆していると見られる。

さらに最後に余談として述べられた、DDR3と同じプロセスを使って1.5Vで動作するDDR2の存在もなかなか興味深いものであった。

Consumer electronics need plentiful memory features

エルピーダに続き講演を行ったのがSamsung Japan CorporationのKim Sangkuk氏である。Samsungは2010年1月、Ramsbusと広範囲なライセンス提携を結んでいる

このライセンス提携は、RambusがSamsungを相手に起こしていた特許侵害訴訟に関する和解の一環であるが、この提携に関する発表の中には"Samsung and Rambus have signed a memorandum of understanding (MOU) relating to a new generation of memory technologies which brings together Samsung's leadership in memory technologies with Rambus' innovations in high performance memory interfaces."(SamsungとRambusは、Samsungがもつメモリ技術とRambusのもつ革新的な高速メモリインタフェースを組み合わせた、次世代メモリテクノロジに関係する了解覚書(MOU:Memorandum Of Understanding)を交わした)という一文があり、まずはグラフィック向け(XDR/XDR2)と携帯向け(Mobile XDR)、将来的にはサーバ向け製品や高速NAND Flashなどにも適用の可能性があるとしている。

実のところSamsungとRambusは(そもそも特許侵害訴訟が起こっていたほどだから)決して仲が良いとはいえなかった訳であり、Direct RDRAMの時代からXDRの初期まではSamsungも(エルピーダと共に)メモリチップを出荷していたものの、その後は生産を中止しており、結果エルピーダが事実上XDR DRAMの単独サプライヤになっていた訳だ。ただこの和解を受けて、一応SamsungもまたXDR/XDR2や将来的にはMobile XDRの出荷を開始するかもしれない。「かもしれない」というのは、Kim氏のプレゼンテーションでもそこまで明確な言及が無かったことで、このあたりは今後の市場の動向を見ながら、という事であろう。