--来るべき2010年に向けて、注目していらっしゃる分野やキーワードがありましたら教えてください。

ビジネスに対してITがどういう価値を出せるのか - さまざまな場面でこのことがより重みをもつようになると思います。

クラウドコンピューティングが普及し、ITリソースが社外にあることが増えてきた現在、企業のIT部門は、いま以上にITのバリューを引き出す努力が求められるでしょう。その場合、重要なのはCIOと呼ばれる人びと(あるいは、それに近い担当者)がInformation(情報)という観点でシステムを見ているかどうか、Technology(技術)だけにこだわっているのではないか、ということです。

2010年は企業にとって情報戦略が重要になってくるでしょう。情報がどういう形でビジネスに貢献できるのか - 過去の実績を見るための単なる集計処理に終始するのではなく、情報でもって将来を見通す力が求められます。それはすなわち、情報を使って利益を生みだす力ともいえます。ビジネスを取り巻く環境の変化は速く、リーマンショックのようなリスクがまた、いつ起こるかわからない。ですが、それは情報を整理していけばある程度パターン化されていることにも気づくはずです。先行きが不透明であることを受け容れ、その中からある程度のパターンを分析し、戦略を立て、リスクに備える - ITがこれらにどれだけ貢献できるかが問われるようになると思います。

※ガートナーによる「パターンベースストラテジ(変化を先読みする情報力)」に対する見解はこちら(英文)

--ユーザ企業のIT担当者、もしくはITベンダに向けて、2010年に向けたメッセージをお願いできますか。

ひと言で言うなら、「ITの役割を社長にわかるように説明せよ」です。これは双方に対して言えると思います。コスト削減が声高に唱えられすぎると、"ITは重要ではない"とする意識が一部で芽生えるかもしれませんが、もはや企業はITなしに成り立つものではありません。会計でも顧客対応でも、ITなしで業務を進めることは考えにくい。だからこそ、企業のIT担当者は社長にわかる言葉でITの重要性を説かなくてはならないのです。

ガートナーでは今年のITシンポジウムで「ITリーダーに向けた2010年の行動原則」として7つの提言を行いました。

  • コストカット・リスクヘッジの「守勢」からビジネス成長・リスクテイクの「攻勢」へのバランスを取る → 景気が好転したとき、攻めに出るためにはどういう準備が必要かを考える
  • IT支出最適化の経験を、成長の原始創出に活かす → コストカット一辺倒から抜けだしたとき、余った予算を成長に向けて投資する
  • 視界不良・不確実な環境を「常態」として受け容れる → "変化は起こる"ということを前提にIT側も準備をする
  • ステークホルダーの信頼獲得のために、必要な情報の可視化・透明化を追求する → 顧客/株主/社員に不安や不信を与えず、プラスの方向を見てもらうために
  • 「個人」の影響力の利用機会を拡大する → ソーシャルネットワークを情報源として活用する
  • 変化・革新の種を企業の外へ獲りに行く → 社内にある情報だけでなく、社外からの情報入手を積極的に行う
  • 顧客とリソースに関する国内・海外の境界を取り払う → インターナショナルからグローバルへ

これらのことをIT担当者/ベンダが、"社長にわかるように伝える"、あるいは社長からみたとき、たしかにITの力によって改善が図られていると実感できる - これができなければ、今後、ビジネスにおけるITの地位が不当に低くなるおそれがあります。是非とも心に留めておいてほしいですね。

グローバル化は日本企業の課題と言われて久しいが、「日本独自のバリュー(価値)をもつことは非常によいと思います。ただし、その伝え方はグローバルスタンダードに沿っていることが必要です」(堀内氏)