--今年のいくつかの"ITトレンド"の中に、BIの台頭が含められるかと思います。この流れについてはどう思われるでしょうか。日本において、本当にBIが普及する下地はできたといえるのでしょうか。

BIが話題になることが多かったのは確かですが、本当に普及するのか、という点ではすこし微妙と言えます。

2009年において顕在化したのは、BIそのものよりも、その派生であるCPM(Corporate Performance Management: 企業パフォーマンス管理)へのニーズであったように思えます。これまでも大企業では財務分析などを行うためにBI/CPMを導入していたところはありましたが、今年はもう一段下のレイヤの企業にもそういったニーズが拡がったようです。

2007年に起こった、一連のメガベンダによる中堅BIベンダの買収劇について、「(大方の技術的統合が済んだという見方もあるが)、製品レベルで見ても実際にはまだon-goingであると思う。SAPでもOracleでもIBMでもそれは同じ。既存の技術と買収先の技術の統合はそれくらいむずかしい」と堀内氏。ならば2010年はそこから一歩先に進めたベンダに勝機があるのかもしれない

国内市場において、ここ数年、BIの裾野が拡がったのは間違いありませんが、これはマイクロソフトやウィングアークといった企業がレポーティング分野で地道に取り組んできた部分が大きい。今はそれに加え、もう少しビジネスに直結する部分で変化が起きているようです。ひとつ例を挙げると、ERPユーザ企業からBWのデータを分析に使いたいという要望を聞くことが多くなりました。ERPの中に溜まったデータを抽出するツールを提供するようなベンダも増えているようです。

ただし、実際にBIを使って分析を行い、経営改善(アクション)につなげられる企業が多くなったかというと、それほど多くはないというのが実情です。現在のBI導入はITシステム部門が担当することがほとんどです。その場合、ビジネスの現場、つまりアクションを起こすユーザの側に立ったシステムとはいえなくなってしまうことが多い。これが5年前なら、クライアント/サーバ方式のBIツールが多く、業務部門で導入を行うことも可能だったのですが、最近のWebベースのソリューションを業務部門で導入することはほとんど無理です。BIで何をやるのかをわかっていない人が構築すれば、経営改善につながるような"BIによるPDCAの実現"は難しいでしょう。ここが現在のBI導入におけるチャレンジともいうべき点ですね。

では、2010年においてBIの普及は進まないのか、というと、導入を進める企業は増えると思います。ここ最近、IBMなどBIのコンサルテーションサービスを提供する企業が多くなってきていますし、ベンダのBIに対するマーケティング予算も増えることが予想されるので、ユーザ企業は確実にBIに触れる機会が増えるでしょう。ただし爆発的ではない。

--今年のキーワードで最も注目度が高かった"クラウドコンピューティング"ですが、従来のASPやSaaSと、どこが根本的に異なるのでしょうか。

たとえばAmazonがクラウドコンピューティングのリーディング企業になるなんて、これまでの常識では考えにくいことです。本屋さんがITをサブビジネスで扱うことができる - これがクラウドのすごいところです。

ガートナーではクラウドを「スケーラブルかつ弾力性のある、ITによる能力をインターネット技術を利用してサービスとして内外の顧客に提供するコンピューティングモデル」と定義しています。最も重要なところは、最初にあるスケーラブルという部分でしょう。従来のASPでは、ネット上にあるサービスを単に使うというだけで、スケールするものではなかった。

"コンピューティングモデル"という流れで見れば、クラウドは分散環境におけるモデルの一形態です。それがSaaSなのか、PaaSなのか、あるいはIaaSなのかは、使う側が求める要件によって変わってくる。ではユーザがいま何をクラウドに求めているかというと、2つの点に集約されます。ひとつは"コスト削減"、もうひとつは"短期導入"です。私の見るところ、現在は短期導入のニーズのほうが増えてきている感があります。ビジネスをすぐに立ち上げて市場に参入したい、あるいは急な人員増でひとりひとりに物理的な環境を整えることが難しい、といったケースにおいては、クラウドは非常に有効だといえます。すこし前ですが、日本郵政の事例はこの短期導入のケースにあたります。最近は国内でも、エコポイント(Force.comによるシステム6月発注、7月稼働)やローソン(4月にForce.comの導入を発表)など、先進的なクラウド事例が増えてきています。これらも短期導入をめざして行われたケースですね。

※ガートナーによる「クラウドコンピューティング」に対する見解はこちら(英文)