利用客の命を預かる航空業、その文化がプロジェクトにも
――プロジェクトの成功の秘訣はどこにあるとお考えですか。
加藤氏: ユーザーの意識をどのように変えていくかという点は重要です。私も含め、新しい取り組みに対しては、つい「今のままでも問題ない」という抵抗感が出てきます。その意識をどのように取り払うか。どのようにユーザーに理解してもらうか。この視点を忘れてしまうと、安易な方向に流れてしまいプロジェクトを成功させることはできません。
そして、フォローアップです。PDCAサイクルとも言われますが、仕組みがうまくいっているかを常に確認し、改善が必要ならば次の手を打つというフォローがされなければ、新しい仕組みは定着しません。
李氏: JALさんは、稼働後も、継続的にPDCAを回して改善活動に取り組まれているようですね。
私がプロジェクト参画当初に抱いた印象として、言葉として適切かどうかは分かりませんが、「まじめに仕事に取り組む人が多い」という印象がありました。プロジェクト成功のためには、チェンジ・マネジメントが重要です。新しい取り組みを全社員に浸透させるためには、当然ですがチェンジ・マネジメントグループのメンバーがまず高い意識を持つ必要があります。根っこがしっかりしなければ大きな取り組みは成立しませんからね。今回は加藤さんはじめグループのメンバーが高い意識を持っていましたし、PMやPMOが重要性を理解してチェンジ・マネジメントグループの体制を築かれていました。
では、このような、まじめで高い意識を持てた、また、継続的に改善活動に取り組んでいる要因は何か。外部の意見ですが、やはり、航空業界でお客様の命を預かっているということと関連しているのでは、と考えています。
さまざまなプロジェクトを支援してきましたが、これだけの大規模プロジェクトを大きなトラブルなく進められた例は珍しいですね。JALさんの企業としての使命感や文化こそが成功要因であると考えます。当社はチェンジ・マネジメントの領域で、社員の意識や仕事のやり方を変えるお手伝いをしてますが、JALさんの安全、品質に対する考えや姿勢を見て、逆に良い勉強をさせていただきました。
加藤氏: 私は4月でプロジェクトを離れて、現在は、JALウェイズに所属しています。プロジェクトを離れて以降、あまり状況を把握していませんでしたが、今回このようなインタビューの機会があり、現在のプロジェクトの状況を聞いたり資料を確認したりすることで、我々が進めてきた定着化の取り組みに対して継続してフォローがなされていることが分かりました。元プロジェクトメンバーとして安心しましたし、うれしい限りですね。
――今回のプロジェクトは、まさに、定着化のベストプラクティスといえますね。
加藤氏: 一般に成功の秘訣は3つあると言われます。1つ目は本人の努力。2つ目は、周囲の協力。そして3つ目は、見えない力です。本人の努力は当然必要ですが、周囲の協力がなければうまくいきません。また、成功には人智のおよばない運などの要素もあると思います。今回はそういう3つの要素が相まって、成功できたのではないかと感じています。
――今回のプロジェクトを通じて、定着化には何が大事だとお感じになりましたか。
加藤氏: 当たり前のことを当たり前に行うということです。新しいシステムを入れましたが、それは当然自分の業務の一環です。新しい業務に溶け込み、自然にできるようにならなければいけません。それが定着化ということだと思っています。
李氏: 社内でよく「お客様が変わる姿をイメージして、変えるために何が必要かを考えよう」と話しています。今回も、我々自身がどれだけお客様の変わる姿をイメージできるかが重要でした。
当社では、「I'll be inside for your happiness.」を理念として掲げています。お客様の成功のために、お客様の業務に入り、汗をかいて支援しよう、という意味です。現場で「変えるために」という視点でアクションしたことから、プロジェクト成功のお役に立てたのでは、と考えております。
※ 本稿は、SAPジャパン発行の『SAP CERTIFICATION VOL.7』に掲載された特集『ユーザー定着化サービス』を一部加筆のうえ転載したものです。