ユーザービリティーを重視し、マニュアルをWeb化


――マニュアル作りでは、何か工夫をされたのでしょうか。

加藤氏: マニュアルについては、Web化したことが大きいと思います。マニュアルは、約30,000ページ/8,000ファイルにも及ぶものになりましたが、Web化したことにより、誰でもすぐにアクセスできるようになりました。Web化にあたっては、操作解説と業務解説とをわかりやすく整理したので、ユーザーが実際の業務で困った際は、目次から担当する業務を検索すれば求めているマニュアルに簡単に行き着けるようになっています。

また、パフォーマンスも非常に良く、ストレスなく検索できる点もユーザーから好評を博している大きな要因であると思っています。これは、マニュアルをWeb化するにあたり、アプリケーション選定、Web化加工方法などユーザービリティーに重点を置いて検討したことによると考えています。

李氏: 他社の事例で、「紙でマニュアルを作ったが誰にも使われない。デスクの傍らに置いてある」という状況をたくさん見てきました。ユーザーの方がいつでもどこでも必要な情報にスピーディーにアクセスできるようにWeb化しましたが、業務軸で目次を整理したり、検索機能などを工夫したり、『使えるマニュアルの実現』という視点で検討を進めたことが、ユーザーの評価に結びついたようですね。

今回のようにシステム構築プロジェクトでマニュアルを作成する場合、稼働直前にシステム画面に多くの変更が加わります。サービスインの際に、画面に合ったマニュアルが用意されなければ混乱の原因となります。サービスインに照準を合わせ、開発側での変更内容をマニュアルに漏れなく反映させる。これらの管理の仕組みを作るという点でもエル・ティー・エスのノウハウを用いて支援しました。

加藤氏: 大事なことはマニュアルにおいても、フォローアップするということです。業務は常に変化しているわけですから、稼働時に問題なくても、数ヶ月、数年が経過すると変わる部分もでてきます。変わった部分について常にアップデートするのはもちろん、使い勝手を良くするための改善施策は継続的に実施しています。

――業務とシステムを結び付けたトレーニングやマニュアル化を実現されたということですが、どのような体制で準備・展開されたのでしょうか。

李氏: チェンジ・マネジメントグループにエル・ティー・エスのメンバーが入り、トレーニングとして教える業務範囲、実際の業務に即したシナリオ、データを、ユーザーや開発メンバーの方を交えて1つひとつ詰めていきました。その後、実際に利用する環境の構築やデータの投入も行い、マニュアル作成やトレーニングを進めました。

プロジェクトを振り返る加藤氏と李氏。マニュアルのWeb化には、「変更が必要になったときに常にアップデートできる、というねらいもあった」という

稼働後の安定化、定着化に向けて


――稼働後、現在はどのような状況になっているのでしょうか。

加藤氏: 2008年11月から稼働して、約1年。途中、細かいバグは発生しましたが、それらを修正し、改善を続けています。おかげさまで、大きなトラブルもなく、ここまで安定稼働しています。

ポイントは、ユーザーに対してきちんとトレーニングを行ったこと。そして、マニュアルもしっかり作りアクセスしやすいようにしたこと。そして、フォローアップをしっかりしたということです。稼働後、実際に使ってみると、ユーザーから改善要望などさまざまな声が出てきます。それらに対するフォローアップの仕組みを作ることも重要です。

たとえば、本稼働前にヘルプデスクを開設し、単純に質問者に回答を返すだけでなく、頻繁に質問されることはFAQとして公開するなど、さまざまなサポートを行うことで安定稼働につなげていきました。私自身は2009年4月にプロジェクトを離れましたが、それ以降も効果的なフォローアップは続いているようです。

――稼働後の安定化、定着化に向けて進めていることはありますか。

加藤氏: 現時点で検討・実施していることは3つあります。1つは、システムを有効に活用するために、データを正しく入力する仕組みを作ることです。システムが一元化され、共通化されていることは非常に大きなメリットがありますが、反面一度誤ったデータを入力してしまうと悪影響は大きくなります。そこで、データ入力を監視する体制・仕組みを構築し、継続的にモニターしています。

次に、ユーザーはかなり操作に慣れてきましたが、まだまだデータ処理に要する時間を低減させる必要があると考えています。そのための制御マクロを開発して自動化を図ったり、部門を超えた入力を可能にするツール開発を進めたりしています。

最後に、レポート機能の活用です。データはシステムの中に入っていますが、それをいかに活用するか。知っていれば簡単にできるが、知らなければせっかくのデータを活用できない。そこで、レポート機能を有効活用するためのユーザー部門への教育を検討しています。