Rich Beyer氏の基調講演

Beyer氏の基調講演は、まず昨年からの経済状況の悪化をおさらいし、日本もまた不況の影響を受けているのは事実だとしながら、この不況から抜け出すための新しいKey Technologyを保持しているのも日本であり(Photo05)、日本のもつTechnologyが世界的に重要になるとした。世界的な動向を長期的に見れば、不況の底は打ったと氏は考えているが、だからといって急激に回復するわけではなく、数年は低迷が続くと見ている。が、この低迷はいくつかの有望な分野での成長が牽引する形で抜け出すだろうと考えており、Freescaleもこれに合わせる形で製品展開を行ってゆくとした。

FreescaleはEmbedded ProcessorとRF/Analog/Sensorの各技術、それを支えるソフトウェアという資産を持っており、すでに自動車向け(主にPower Train ControlやAirBag制御など)、およびNetwork Processor(主に基地局向け)ではNo.1のポジションにあり、このポジションをさらに強化する一方、長らく低迷を続けた携帯電話端末向けからは撤退するという判断を行った(Photo06)。また産業向け及びコンシューマ向けに、新しいマーケット(でのシェア)を確保すべく注力することも明確にした(Photo07)。

Photo05:Key Technologyの例。要するにGreen Powerに関連している話をここでは指している

Photo06:以前はここに携帯電話端末が入って3本柱だった訳だが、頼みのMotorolaの低迷により大打撃を受けたことで2本柱+Emerging Marketという体制に切り替えた訳だ。

Photo07:Emerging Marketの例。左下はSmart Meter(インテリジェンスな電力監視メータ)、右上は電子ブックリーダである。

こうした方針を支えるのが、同社が提供するさまざまなツールやテクノロジである。例えば通信分野ではマルチコアのQorIQプロセッサを投入するが、これを使ってのアプリケーション開発を容易にするのが今年6月に発表されたVortiQaである。またMCUを使ってのプロトタイピングを容易にするFreescale Tower(Photo08,09)や、Freescaleが提供するセンサを使った開発を容易にするSensor Toolboxも今回発表された。

Photo08:要するにMCUのほかセンサや外部I/Fなどを簡単に組み合わせられる開発キットである。スロットはPCIのそれと殆ど変わらず、非常にコンパクトであった。

Photo09:会場展示されていたTower System。例えばColdFire V1を搭載したシステム一式は99ドルとなっている

Photo10:これは加速度センサ、圧力センサ、近接センサをセットにした「KITSTARTER1EVM」というパッケージと思われる。ちなみに直販価格は299.95ドル

穿った物の言い方をすれば、8~16bit MCUのマーケットでMicrochip TechnologyとAtmelが激しく争っており、ここの性能が32bitのローエンドに近い処まで上がってきている。ここにCortex-M3を搭載したMCUを引っさげてその他の会社(筆頭がSTMicroelectronicsだろう)が乗り込んできており、Freescaleはこの分野におけるプレセンスがどんどん小さくなりつつある。今回の開発キット投入は、こうした流れを変えるための最初の一歩、というのが筆者の感想である。

さて話が逸れたので元に戻す。こうしたテクノロジーをベースに、同社がどうした方向性を目指すか、というのがこちらだ(Photo11)。

Photo11:久しぶりにこれを見た気がする。最初に見たのは2006年のFTF Americaであり、これを紹介したのは前CEOのMichel Mayer氏である。前CEOの掲げたコンセプトを変わらず維持し続ける、というのは(もちろんそれが理にかなっているからという部分はあるにしても)珍しい気がする

この3つで何をFreescaleは提供するのか?。まず"The Net Effect"では引き続きネットワーク上を流れるバンド幅が増大し続けており(Photo12)、これは有線のみならずワイヤレスネットワークでも同じである(Photo13)。こうしたニーズは今後も増えてくるわけで(Photo14)、ここに向けてFreescaleはPowerQUICC/QorIQに加え、ワイヤレス向けの基地局ソリューションを提供する(Photo15)という話である。

Photo12:この「ニコニコ」の発音にずいぶん苦しんでいた。ちなみに本国では言うまでもなくYouTubeが前面に。こうした動画がトラフィックの総量を押し上げている、という話

Photo13:携帯電話などで動画を見るというトレンドも着実に浸透してきている。最近はこれに加え、SmartBookで見るという新しいUsage Modelが出てきたのは、大容量ワイヤレスネットワークの利用モデルに対する1つの解というべきか

Photo14:ネットワークトラフィックの伸びの予想値。今後もどんどん増えてゆくことが予測される

Photo15:例えばLTEの基地局を、FreescaleのQorIQのSTARCoreを使って構成すると、部品コストと消費電力の両方の節約になるというシナリオ

次に"Health & Safety"。まずSafetyの観点では、自動車をいかに安全にするかという取り組みは、この不況の自動車業界にあっても止まらない(というよりも、むしろ不況だからこそ、こうした付加価値を付けたモデルが望まれる)事もあり、より積極的に取り組む姿勢をみせた。もともと昨今では自動車業界に参入する半導体ベンダは少なくないが、その大半はミッションクリティカルな部分を避け、Infortaimentにフォーカスする(その代表がIntelだろう)事が多い。もちろんFreescaleもi.MXシリーズをInfortaiment向けに投入するが、それよりもエンジンコントローラやFlexRayのコントローラ、エアバッグコントローラなどですでに大きなシェアを持っており、こちらをさらに積極的に力を入れてゆく事を示した。

要するにPassive Safety(事故が起きたときに乗員を守る)向けのソリューションに加え、Active Safety(事故が起きない/起きても被害を最小限にする)向けのソリューションの本格展開である。今回のFTFJで発表されたDSIコンソーシアムも、こうした一環と考えてよい。一方Healthに関しては、この後に控える話に配慮してか、Continua Health Alliance対応機器が簡単に作れる(Photo17)という話に簡単に触れた程度であった。

Photo16:Freescaleの現在展開中の自動車向けコントローラの一覧というべきか。エアバッグやエンジンコントロール、Drive by Wire向けFlexRayコントローラなどではすでにトップシェアである。

Photo17:これは米国におけるContinua Health Allianceのガイドラインに沿った機器の例。これらを簡単に作れる、というのが現時点の大きなウリである

最後の"Going Green"は、地球温暖化対策や省エネルギーのために、特に米国で言われているSmart Power Gridに対応して何ができるかという事に力点が置かれたものになった(Photo18)。Smart Power Grid自体はまだ明確な定義は無いが、ここで述べているのは発電所からの電力を各家庭や工場に供給するだけでなく、太陽光や風力などでローカルに発電施設を用意する場合、発電状況などに応じて供給の細かな制御が必要になるという話である。最終的にはこれをインテリジェンスに解決する必要があるが、その第一歩となるのが、電力会社と電力計が双方向に通信できることで、まずはこれに必要となるコンポーネントをFreescaleができる、という話であった。

Photo18:このSmartMeter、例えば国によっては(電気料金をごまかすために)電力計を破壊するとかバイパスする(要するに盗電)なんて事に対する対策にもなる、というのはなかなか興味深い視点であった