今回のリリースでAdobeのツール群にFlash Catalystが加わったことは、アプリケーション開発のワークフローに大きな影響を与えることになるだろう。現在の一般的なワークフローでは、デザイナがAdobe Creative Suite(のツール群)を用いてUIをデザインして開発者に渡し、開発者はそれを元に実際のユーザエクスペリエンスを実装するというスタイルである。しかしこのとき渡されるデザインはバックエンドのデータからは独立した静的なものであるため、開発者側でそのまま活用することができない。
ここでデザイナがFlash Catalystを導入することにより、プログラムのコードをいっさい書くことなくインタラクティブなUIを実装することができるようになる。したがって開発者側でそのまま活用できる、機能実装済みのデザインを受け渡しすることが可能になるとのこと。Flash Calalistが実装のレベルでデザイナと開発者の橋渡しをする。これがAdobeが同ツールによって提案する新しいワークフローである。
一方、現実的には開発者がUIのデザインまで行っているというケースもよく見受けられる。Flash Catalystはデザイナ向けのツールとされている一方で、多分に開発者の立場にも考慮された作りになっており、このような現場でも大いに役立つことになるだろうとDuvos氏は自信を覗かせている。
実際のところ、Flash Catalystは多くのデザイナや開発者の期待を背負って登場した。しかしその反面で、これによってデザイナの仕事が増えるのではないかといった懸念の声も聞こえている。これに対してDuvos氏は、「そうではなく、今までとは違うタイプの仕事ができるようになると考えていただきたいと思います。必要なことは、デザイナのタイプをよく考えることです」と語っている。
デザイナのタイプとは、たとえばワークフローを考慮する必要がなく、静的なデザインやコンテンツを作成するタイプが考えられる。この場合、Catalystを使うことによってインタラクティブなデザインを作成できる可能性が広がる。
7月8日のプレスラウンドテーブルでは、Duvos氏が日本の開発者およびデザイナから新Flashファミリについての評価を聞く場面もあった。「日本語環境の充実を」「デザインを待ってから機能を書いていては、納期に間に合わない。ワークフローの改善をさらに図ってほしい」などの意見が出た |
一方で開発プロセスに関与したデザインを行うタイプのデザイナについては、インタラクティブ性をデザインする立場とインタラクションのデザインを行う立場が考えられるという。前者の立場では、従来は開発者が担当せざるを得なかったインタフェースの振舞いの部分まで作ることができるようになるというメリットが考えられる。
インタラクションのデザインを行う役割のデザイナは「インタラクションインフォメーションアーキテクト」などと呼ばれる。これはアプリケーション内部の情報の流れまで考慮しつつインタラクティブなユーザエクスペリエンスの設計を担う立場である。この立場はアプリケーションの要求定義の段階から積極的に設計に関与することになる。そこでFlash Catalystを利用することによって、顧客に提示するプロトタイプやワイヤフレームなどの作成と、開発者に渡すデザインの作成を同時に行うことができるようになるという。
Flash CatalystによってAdobeが提案する新しいワークフローの中では、このインフォメーションアーキテクトの役割が非常に重要になるともDuvos氏は指摘している。デザインとデータの統合を効果的に行う必要があるからだ。
「アプリケーション開発においてやらなければいけないことは、作りたいデザインとすでにあるデータをしっかり組み合わせるということです。多くの場合、既存のデータ資産がそこにあるわけで、すべてをゼロから設計すればいいわけではありません。Catalystの役割は単にデザイナと開発者をつなぐというだけでなく、そのような環境の中で効果的なワークフローの確立を助けることにあります」(Duvos氏)