vProは"何を変えた"のか

CSKシステムズ 開発部 第一開発課 主事の伊藤信行氏

vProの登場によって、企業のクライアントPCの状況はどう変わったのだろうか。この点について伊藤氏は、「一番のメインはリモートからの電源オンオフが可能になったこと」という。「もちろん、vProがなくても実際にPCのところまで行って電源を入れればいいだけの話、とも言えますが、PCの台数が1,000台以上あったり、全国の拠点に散らばってたりしたら、電源をオンにするために現地に行くという選択肢はあり得ません」(伊藤氏)と語る。リモートからの電源投入に関しては、以前からWOL(Wake On LAN)機能が実装されており、マジックパケットと呼ばれる特殊な形式のパケットを受信した場合にNICがPC本体の電源を投入する、という形で普及している。ただし、これは従来企業内ではあまり使われていなかったそうだ。「WOLでは、誰が発信したかに関わらず、NICがマジックパケットを受信したら有無を言わさずシステムが起動してしまいますが、vProの場合"誰が遠隔から起動を命じているのか"を相互認証するなど、セキュリティを維持した形で遠隔での電源投入を実現しています。これによって、企業内システムで実用的に遠隔電源投入を利用できる環境がようやく整ったといって良いでしょう」(伊藤氏)という事情があるようだ。

遠隔で電源を投入することの実用的な価値はどの辺りにあるのだろうか。これについては、クライアントPCへのセキュリティパッチの適用などの作業を業務時間外に自動的に行なうといった用途が想定される。伊藤氏は「企業によっては、Microsoftが配布するパッチでも素通しで適用させることはせず、いったん運用管理担当者が問題ないことを検証してから改めて社内に再配布する、という運用を行なっている場合があります。実際の適用を行なうのは他の業務に影響を与えない深夜帯などを選ぶことが多いのですが、このときにPCの電源がオフになっていたとしても、それをオンにしてセキュリティパッチを適用し、終わったらまた電源をオフにする、という一連の操作をすべて遠隔から自動的に行なえるため、運用管理者の負担が減ることは間違いないでしょう」と語る。

運用管理の負担軽減に加え、省電力という観点からも効果は大きいという。上述のような運用を行なっている企業では珍しくないことだそうだが、こうした環境では個々の利用者はPCの電源を切らず、常時付けっぱなしにしておく習慣になる人が結構な割合で存在するようだ。「今夜はパッチの適用があるので、退社時にPCの電源を切らないでおいて下さい」というアナウンスがあったときだけ対応すれば良いのだが、常時電源を入れっぱなしにしておけば何も気にする必要はなくなるというわけだ。また、当日出張の予定がある利用者は前日からずっと電源オンのままにしておく、という対応を選ぶこともある。こうしたことが繰り返されれば、そのうちに常時電源オンにしておく方が簡単と考える人が増えていくことは容易に理解できる。

vProでは、必要なときに必要なタイミングで電源をオンにできるため、退社時には電源をオフにしていく、という習慣に変えることを推進できるし、場合によっては就業時間後に遠隔から電源オフにしてしまうという手段も技術的には可能だ。残業中の人がいる可能性を考え、実際にこうした手段を導入した企業はまだないそうだが、今後省電力がより一層求められるようになってきた場合には採りうる手段の1つとして評価される可能性もないとは言えないだろう。