この映像にVFXは不可欠
――階級や軍部が残った社会という設定面だけでなく、現実では有り得ないビジュアル表現には、VFXを担当した白組の尽力が大きいと思います。佐藤監督はホラー映画から業界に入られたという事もあり、映画におけるVFXの有効性を、普通の監督よりも強く感じられていると思います。この作品では、やはりVFXが重要だったと思うのですが。
佐藤「例えば、脚本を担当した『アンフェア』のような、映像的にVFXを多用していないと思われる作品でも、VFXは意外と多いんです。そういう意味ではVFXを特別とは思わないのですが、『K-20』に関しては当時の小道具ひとつとってみても、現在はないという部分などで苦労しました。ただ、VFXを担当した白組は『ALWAYS 三丁目の夕日』で、現実にはない映像を丸ごと作るというVFXに挑戦しているので、大変な仕事なのですが、こなれてきたという部分があったかもしれません」
――佐藤監督は白組とCFなどでもお仕事をされていますね。
佐藤「実は『エコエコアザラク』やテレビドラマ『南くんの恋人』といった作品で、白組にはずっと以前からVFXを担当していただいてます。以前は色々とオーダーを出したのですが、最近は最初から凄くクオリティの高い映像を作ってくださるので、助かっています」
――あそこまでスチーム・パンク的な映像というのは、邦画ではほとんどアニメ以外では見た記憶がないのですが、あの映像は佐藤監督の嗜好なのでしょうか?
佐藤「元々『メトロポリス』とか、ああいうスチーム・パンク的な世界観は大好きなんです。今回、登場したテスラも、SFファンには有名な存在ですし、乱歩にも出てきます」
――江戸川乱歩のイメージから大きく変わったキャラクター造形も斬新でした。
佐藤「二十面相のマスクに関しては、ゴムや鉄でなく木で出来ているというイメージなんです。海外の黒いマスクの怪盗というより、日本の仏像をモチーフにしています」
――ダークというか、一癖あるような明智小五郎も意外でした。
佐藤「頭は良いけど、嫌な奴で性格も悪いという明智小五郎は、北村さんの原作のままなんですよ(笑)」
――そんなふたりの対決を軸とした冒険活劇という部分以外では、どんな部分にこだわりましたか?
佐藤「やっぱり江戸川乱歩ファンを裏切らないという部分は意識しました。『怪人二十面相が逃げる時、縄梯子に捕まって高笑いを残す』とか、江戸川乱歩の荒唐無稽さは大切にしました」
――乱歩作品は猟奇の部分ばかり強調されますが、ポプラ社の一連のジュブナイル作品は、とにかく荒唐無稽で面白いですからね。
佐藤「大人が読むとバカバカしいところが面白いんですよ(笑)。二十面相の変装にしてもポストに化けたりとか、小林少年も金粉を塗って仏像に化けたりとか。そんな、原典にある『あり得ない荒唐無稽さ』を楽しむ映画にしたいと思いました。あり得ない事を真面目に撮るという事を意識しています」
フランスのパルクールを取り入れた生身のアクション
――よく考えると、お話は荒唐無稽なジュブナイル冒険活劇で、映像は誰も観たことないようなスチーム・パンクな日本という凄い映画ですよね。そんな世界で、佐藤監督がほかに力を入れた部分はありますか?
佐藤「VFXだけでなく、しっかりとアクションを描くということに注力しました。具体的には、北村さんの原作にもある二十面相の泥棒修行ですね。どんな障害物があっても直線で走るというやつです。このアクションには、フランスのパルクールという手法を使いました。最近の『007』シリーズや『ボーン・アルティメイタム』で使われた手法なんですが、CGやワイヤーに頼らず本当に飛んだり、跳ねたり、飛び降りたりする激しいスタントです」
――アクションシーンは、ワイヤーに頼っていないせいか、確かに良い意味で「重い」印象がありました。1980年代までの作品では、そのようなリアルに身体で魅せるアクションが主流でしたが、最近は減少してますよね。主演の金城武さんは、どれぐらい対応出来ていましたか?
佐藤「金城さんは、身体もよく動く器用な方で『やって』とお願いした事は大抵こなしてくださいました」
――この作品をDVDで観る方に、どう楽しんで欲しいでしょうか?
佐藤「全年齢層に楽しめる作品だと思います。荒唐無稽な冒険活劇なので、皆でつっこみを入れながら見て欲しいですね(笑)。あと、白組が過去の映像作品で使った小道具が、ゲスト出演というかこっそり登場しているので、DVDを良く観て見つけて欲しいですね」