総括
本稿では、オープンループ型とクローズドループ型双方のMIMO技術について、いくつかの実現方法を取り挙げ解説した。
オープンループ型MIMO技術の1つである空間多重化伝送は、多重化利得の最大化を追求した方法である。この方法を採用すれば、複数の送信アンテナを使って複数のデータ・ストリームを送信できるが、受信側(Rx)における検出が複雑になるという問題がある。一方で、Alamouti符号を利用すれば、空間多重化伝送を使った場合に比べて、非常に簡素な検出方法でダイバーシティ利得を最大化することができるが、複数の送信アンテナを使って単一のデータ・ストリームしか送信することができない。空間多重とAlamouti符号のうち、いずれの方法を採用すべきかという選択は、チャネルの状態に依存する。
一方、クローズドループ型MIMO技術は、オープンループ型MIMO技術に比べて、チャネル情報を利用することにより、SN比やキャパシティの向上だけでなく、受信側(Rx)の設計の簡素化も可能だ。しかしながら、クローズドループ型MIMO技術は、チャネル情報を取得する際に遅延が発生するため移動性の高い環境で使用する場合は注意が必要となる。さらに、クローズドループ型MIMOでは、制限フィードバックとアップリンク・サウンディングを利用した場合、取得したチャネル情報が不十分であるためパフォーマンスの損失が生じてしまうこととなる。
いずれのMIMO技術にもメリットとデメリットがある。無線通信システムを設計する際には、サービスの種類やチャネルの状態、複雑性、遅延などを考慮して、適切なMIMO技術を選択する必要があるのである。
参考文献
[1] R.W. ヒースJr. & A.J. ポールラージ著
「Switching Between Diversity and Multiplexing in MIMO Systems(MIMOシステムにおけるダイバーシティと多重化の切り替え)」
IEEE Trans. Communications、vol. 53、no. 6、pp. 962-968、2005年6月
[2] P. シァ & G.B. ギアナキス著
「Design and analysis of transmit-beamforming based on limited-rate feedback(速度制御フィードバックに基づく、送信ビームフォーミングの設計および分析)」
IEEE Trans. Signal Proc.、vol. 54、pp. 1853-1863、2006年5月
著者:Lekun Lin(レクン・リン)
米Integrated Device Technology(IDT)
無線システム・アーキテクト
同社にて主に、次世代BTSのシミュレーションのほか、W-CDMAやOFDM BTSに向けた、新たなチップセットの開発条件の検討などに従事している
また、米ユタ大学(ソルトレークシティ)で電気工学を専攻し、博士号を取得している