何でもできると何にもできない
試しに使ってみた感覚としては、かなり完成度の高い評価機であり、そのまま製品化しても十分使えるのではないかということ。実際に発売されていたら、ガジェット好きは買うと思えた。しかし、本田氏は製品化しなかったことについて、「Androidは何でもできるが、それは何もできないというのと同義。何かに特化していないから、50回線のMVNOといったビジネスには向かない」とし、そうしたビジネスを発展させるために、"誰か"が"誰も"が使えるものを出す必要があった、と語る。
また、オープンソースが日本のモノづくりの真価を発揮できる分野であるとし、プラットフォームの共通化により、開発者負担が減り、結果的にSIが不要になる可能性がでてくるほか、オープン化により半導体のチップでさえも別の案件で気軽に使用してもらえる可能性がでてくるとし、「ソフトウェアもハードウェアも陳腐化するものと考え、そこにこだわるのではなく、そこから一歩進みだしてもらいたい」と、オープンソースの活用を指摘する。
組み込みの世界も、短TAT要求が強くなっており、一昔前のように特定のプロセッサをチューニングして使い倒すということが難しくなってきている。逆に言えば、次々と新しいプロセッサを使っていかなければいけないのが実情である。また、高機能化に伴い、新たな分野、例えばコミュニケーション分野、に取り組まなければいけなくなっており、開発の負担は増えている。そうした要求は上層のアプリケーション側で決まるが、下層のハードウェアもそれに追随する必要がある。そうした上と下の階層をつなぐものがAndroidであり、Googleという市場価値を上手く使うことで、「組み込みとIT分野の融合が上手く行く可能性が出てくる」と本田氏は語る。
端的な例としては、IEEEの規格とITUの規格の存在。「PCで使われる規格(Wi-Fi)には相性があると良く言われるが、そんなものは無く、単に仕様が異なるだけ。オープン化することで、こうした似てるが、違う業界として使われてきたものが、同じ土俵で使用できるようになる。重要なのはアプリケーションが接続している回線を気にせずにネットに接続できること」とするが、こうした新しい取り組みは市場がないため、なかなか踏み出せないのが実情である。そのため、本田氏は「今回の端末を用いて、新しい市場から作っていくことが可能になる」とし、その意義を「電話であることが発想を縛る」と語る。
つまり、「携帯網を使ったサービスをユーザーが求めているのであって、通話が優先されるものではない」であり、ユーザーは自分が使いたいサービスに対して料金を支払うことが重要であるとする。例えば、iモード、EZweb、S!メールのすべてのメールアドレスが使えるアプリケーションを持つ端末があれば多くの人がそれを使う可能性がある(実際に、評価端末にはGmailが搭載されているので、それを使うとキャリア云々という問題は関係なくなってしまう)。PCの世界では、キャリアもプロバイダも自由に選べる、つまりオープン化されているわけだが、携帯電話ではそれができない。「自由な端末があって、例えば村の防災無線とかが携帯網でつながって、その端末上で村オリジナルのアプリが動いている、といったこともできるようになるかもしれない」と本田氏は語る。インフラとしては何を用いても良いし、アプリケーションだって、自信がある村のアマチュアプログラマが作っても良い。
SIを介せば高価になるシステムも、Androidを通じて開発すればSIが不要となる可能性もある。しかし、そのためにはオープン化のほか、共通化も必要であるという。共通化しないことには技術が担保できないためだ。今回の端末はオープン化と共通化を実現するものと考えられ、Androidの組み込みへの普及促進が期待される。
搭載されるのは「Android 1.0」で最新版となる同1.5ではない。ただし、「ロードマップ上にはすでに予定として入っている」(本田氏)としているほか、ユーザー側でフルパッケージ版を活用することでアップデート可能とのこと |
なお、価格はオープンとしているが、OESFでも採用されることから、OESFの会員に関しては会員価格が用意されるという。
本田氏は、このAndroid開発キットについて、「サービスモデルの構築用」としており、ハードウェアに詳しくなくてもソフトウェアが作れるため、組み込みエンジニアだけではなく、アプリケーションエンジニアなど、より多くのエンジニアに活用してもらえれば、と期待を寄せている。