大学と企業では知財の扱い方は違う
同フォーラムでは、基調講演のほか、パネルディスカッションも行われた。パネリストは先述の西村氏のほか、東京大学 IRT(Information and Robot Technology)研究機構 知財・制度改革推進部門 部門長・特認教授の飯田絋雄氏、ファナック 常務役員 第一ロボット研究所名誉所長の榊原伸介氏の3名で、コーディネータに日本弁理士会 知財コンサルティング検討委員会委員長で弁理士の遠山勉氏が務めた。
飯田氏の所属する機構は、ITとRT(Robot Technology)の融合を目標とし、家庭内でテーブルを退かしたり、洗濯物を掴んで、洗濯機に入れ、スイッチも押してくれるロボットや1人乗りの移動ロボットなどの開発を行っているという。
5つの部門で構成されており、平成20年度にはパナソニックやトヨタ自動車、オリンパスといった民間企業7社と協働研究契約を締結し122名が参加し研究を行っており、労働・家事に役立つロボットを10年以内に実現することを目標としている。
ただし、協働研究契約を行った企業だけに技術を与えるのではなく、「秘密保持は行うものの、囲い込みだけでは競争力は生まれないため、協働研究企業以外の多数の企業が容易に参加できるようなアフェリエイト体制を4月以降実施できるように向けて調整を進めている」(飯田氏)とした。
また、知財の取り扱いについては、「大学と企業での扱い方は、その目的も管理手法も異なる」(同)とし、「IRT機構では、出願して使われないよりも、ビジネスに実際に使われることが重要と考えており、発明受付や出願は大学の規則に従うものの、できる限り柔軟に扱うことにしている、広くあまねく特許化して使われないよりも、ビジネスに使われる仕組みを目指す」(同)とした。
ただし、「必ずしも開発された技術すべてがTLOで外に出しているわけではなく、マーケティング次第では研究者に戻されるものも多くあるのが実情」(同)であり、「特に、IRT機構ではイノベーションを広く起こすことが目的であり、広く一般に使ってもらいたいのが本音だが、生活領域の特許は少なく、まだまだ未踏の領域であることも理解してもらいたい」(同)とした。
また、西村氏は、「大学と企業のつながりがロボット分野でも成功事例が出てきている」とし、「政府としても、資金面、自治体連携、開発サポートなどをどうやっていくかを検討している。経済産業省以外にも文部科学省やその他の省庁でも政策を行っており、商品化に向けて政府としても支援して新市場の創出に力を入れている」(同)ことを強調した。
サービスロボットの活用に対しては、飯田氏が「少子高齢化で世の中がどうなって行くのか、というのが発端」とし、「人口の減少や世帯数の減少は現実のものとなっている。日本の国力、競争力を維持していくためにはどうすれば良いのか。老人や家庭に入っている女性も密度濃く働かなければ、今の生活水準を維持できなくなるかもしれない。林業などの業種では将来、就労人口が0になる可能性もある。そうして見るとサービスロボットが適用できる市場は沢山ある」とした。
また、榊原氏は、「スウェーデンにはロボットダール(Dalはスウェーデン語で"谷"を意味する)と呼ばれる場所があり、世界中からロボット関連の人たちが集まり、さまざまなアイデアを事業化している。そうしたところでは、特に発想やヒューマンインタフェースの分野 - 例えばボタンを見やすいところに大きく配置しつつ、デザインを壊さないといったような - が強く、そうした意味では欧州が世界を牽引するかも知れない」とした。