産業用に強い日本企業
加えて、産業用ロボット、サービス用ロボットでの実用化においても、また、市場拡大を目指す上でも重要な技術として注目すべきテーマを9つ選定し、その分析も行っている。9つのテーマは"歩行技術""自律移動制御技術""学習型計算機技術""複数ロボットの制御技術""画像認識技術""音声認識技術""遠隔操作技術""多指ハンド""安全技術"となっている。
日本企業からの出願件数の伸び率が高いのは多指ハンドや歩行技術となっているが、音声認識技術や自律移動制御技術、画像認識技術などは累積出願件数は多いものの伸び率は高くなく、むしろ米国の方が強い領域となっているという。また、米国企業では、複数ロボットの制御技術や遠隔操作技術が多くなっているという。
ロボットを分野別に見た場合では、産業用ロボットでは日本企業による出願が57%と高いものの、掃除や警備、エンターテイメントなどのサービスロボットでは日本45%、米国33%となり、宇宙や水中、メンテナンスなどに活用される特殊環境用ロボットでは日本30%、米国45%となりシェアは逆転されている。これについて西村氏は、「日本は産業用に注力してきた経緯があり、サービスや特殊環境についてはメジャーとは言えない。一応、サービスロボットについては、市場化されていることから、市場としては日本がトップだが、特殊環境に至っては、そうも言えないのが実情」とする。ただし、「日本の産業用ロボットでは電子部品実装への出願件数の多さが特徴的。国籍別でもバイオを除くすべての区分で日本企業による出願比率がもっとも高く、それが競争力の高さとなっている」(同)とも分析している。
市場の観点からロボットを見る
では、ロボットの市場としてはどうなのか。世界全体での産業用ロボットは市場の拡大に伴い、年々稼働台数が増加している。日本では1985年、稼働台数のシェアは全世界の67%を占めていた。2000年をピークとして2004年では約4割まで低下しているが、これは「稼働台数が減ったわけではなく、アジアシフトなどによる海外市場の拡大に伴うもの」(同)であり、今後の日本のロボット市場は、これまでの製造業中心の形から、「生活分野や医療・福祉分野への需要が飛躍的に伸びていく方向で進み、今後の市場拡大に伴い、新規参入が増えることが期待できるほか、ゴミ処理・清掃、警備、エンターテイメントなどの分野はさまざまな製品が事業化されているが、まだ市場規模は小さく、今後の発展に期待が集まる」(同)とする。
市場動向と予測(見づらくて申し訳ないが、右側のグラフが2025年までのロボット市場の予測。上から生活分野、医療福祉分野、公共分野、製造業分野となっており、00年頃から生活分野が急速に立ち上がっているのが分かる) |
こうした動向を踏まえ、西村氏は、3つの提言を行っている。1つ目は、「注目研究開発テーマの技術開発の深度化」であり、これは先述した注目テーマで挙げた領域の特許をさらに増やすことで、産業の競争力確保を目指すというもの。「これにより、新たな市場でも、これまで培ってきた研究開発の成果を発揮できるはず」(同)とする。
2つ目は「サービスロボット分野の強化」であり、これは今後の市場拡大が期待される同分野に向けて研究開発を行う場合、利用シーンや消費者のニーズに応じた周辺技術、応用技術の研究開発も重視することで、まだ克服されていない課題の解決を目指すというもの。特に「応用開発を重視することで、より多くの分野での活用が見込めるようになる」(同)という。
3つ目は、「産業用ロボット分野のさらなる強化」であり、現在でも競争力を持つ産業用ロボットのさらなる競争力強化に向け、セル生産に対応する産業用ロボット開発を目指した多指ハンド技術の促進などを行うことで、より強いビジネスへと発展を目指すことができるようになるという。