--1億ダウンロード達成などAIRが急速に広がっており、Kevin Lynch氏の基調講演ではNTTドコモとの共同デモも実施している。こうした携帯やTVなどは今後のAIRを導入プラットフォーム拡大の鍵となると思われるが、AndroidやWindows Mobileを含む他社との協業はどうなのか?

すでに多くの企業とパートナーシップを結んでいる。そうした成果はOpen Screen Project(OSP)を見てもらうといいだろう。今年1月にはOSPのパートナーシップを拡大し、たとえばARMやBroadomの参画、Intelの3100チップセットのサポートなどが新たに加わった。また現在全米2位の大手TV局がOSPを使ってサイトのプロモーションを行っており、利用者増を狙っている。Googleとも提携関係にあり、Android上でFlash動作を検証するとともに、Web検索でのFlashファイルのインデックス化も実現する技術を開発した。一方でAIR Marketplaceにはすでに何百単位でアプリケーションが登録されており、利用が急速に広まっていると考えている。

「携帯アプリケーションはデスクトップ上のウィジェットに通じるものがある。AIRでもそのあたりの需要を狙っていきたい」(Story氏)

--いま挙げられているベンダにはインフラ関連の下位レイヤの企業が多いようだが、よりアプリケーションに近い上位レイヤの企業の動向はどうか?

なぜ下位レイヤの話題が多いのかといえば、そうした方向にFlashやAIRが広がっていくと考えているからだ。TV向けのセットトップボックス(STB)や携帯などはその典型だろう。トレンドを語るうえでもう1つ重要なのが、Webアプリケーションでの展開だ。この世界において、ユーザーを特定のアプリケーションに縛れないという問題がある。だから、そのアプリケーションを持つブランドが(デバイスごとに異なる)アプリケーションどうしをくっつけて自らコントロールしたいと考えることになる。だからこそAIRを開発した。AIRの導入により、たとえばWebアプリケーションをそのままデスクトップへと持ち込むことができる。あまり知られていないようだが、Adobe CS4ではAIRを導入アプリケーションを簡単に作成できる機能がある。DreamweaverやFireworks上のデータをそのままAIRに変換できるということだ。

--Kevin Lynch氏がインタビューの中で「一時期はAIR専用ブラウザの制作を考えたこともあった」とコメントしていたが、つまりそういうことなのか?

その通りだ、特定のプラットフォームを用意するだけでは、ユーザーはなかなかその場所にとどまってくれない。「もうこれ以上新しいブラウザはいらない。(IEやNetscapeが繰り広げた) ブラウザ戦争はこりごりだ」というのが顧客の要望だ。一番の問題はブラウザごとにアプリケーションの挙動が異なる点にある。たとえば、そうした互換性チェックを行う新しいオンラインサービスを用意することは可能だ。だがそのような形で一時的な痛みは解消できても、根本的な問題は解決できない。顧客がFlashを使う利用の1つはそうした互換性の問題だ。誰も語ろうとしないが、(互換性の実現が)非常に大きな痛みとなる。

--現在、携帯向けにFlash Liteがリリースされているが、今後の位置付けは?

Flash Playerは1つで十分だというのが顧客の要望だ。なので次に出すバージョンではそうしていきたい。携帯におけるFlash Playerの最大の問題はバッテリ動作時間だが、こうした問題も順次解決していけると考えている。

--Flash Player自体のプログラムサイズは問題にならないのか?

Flash Playerのサイズは以前のバージョンと比較しても小さくなってきており、アプリケーション用のメモリサイズも確保できるようになってきた。またアプリケーション作成において、モバイル用の小さな画面向けに作ってから、より大きな画面向けに変更を加えていくスケールアップのトレンドがでてきた。ウィジェットのアプリケーションに近いイメージだ。将来的には携帯向けのアプリケーションをまず作成し、スケールアップでデスクトップ向けの新たな機能を実装するようなスタイルになるのではないか。

--一般的な感覚として、大きなアプリケーションからスケールダウンするようなアプローチのほうが多い気がするのだが、なぜ逆のスケールアップがトレンドになるのか?

ユーザーは異なるデバイスの(同じ)アプリケーションを同時に使おうとするため、そうしたバックグラウンドでのアプローチについては気にしない。だからこそ、デベロッパ側の意識の変革を考えていく必要があるのではと考えている。

--Cold Fusionはあまり日本で広まっていないようだが、海外との温度差はあるのか?

私の感覚からすれば、Cold Fusion自体が(米国)東海岸出身のアプリケーションで、シリコンバレーのある西海岸側の人間にとっても遠い世界のものだと考えている。だが少しずつそのメリットが認められ、米国全体に少しずつ広く浸透しつつある。何より新しい製品や技術は広がるのに時間がかかるし、それを理解して学ぶのに時間がかかる。Cold Fusionはいまも成長を続けており、もう間もなく新バージョンも出る。だが国によって製品の受け止められ方が違うという現象は当然あるだろう。

「Flash Liteは数年経ったら"ああ、そんなプレーヤーもあったね"と言われる存在になるだろうね(笑)」(Story氏)

--MicrosoftのSilverlightやSun MicrosystemsのJavaFXといった対抗技術が登場しているが、率直な感想は?

そうした賢いライバルらの動向は当然ウォッチしているし、参考ししている部分は多々ある。だが一番耳を傾けなければいけない相手は顧客であって、顧客第一主義がAdobeとしての意見だ。RIAプラットフォームの先駆者として、マネされること自体は光栄に思っている。弊社のFlexの略称は「Fx」だが、「Flash EXperience Platform」を意味している。これがJavaFXの名称として使われているのは非常に興味深い。

私が参加したある欧州でのJava技術カンファレンスでの話だが、Sunはここで基調講演を行ってJavaFXの発表を行った。だが、ここで来場者が口々に述べていたのは「なぜSunがRIAを?」というものだった。私の意見では、FlexはJava開発者に最もフィットする雰囲気を持ち合わせている。デザインという作業はAdobeのDNAであり、デザイナーのニーズはよくわかっている。他社にはないものを持っており、これがRIAのキーベンダとして君臨してきた理由だ。またマルチプラットフォーム環境で一貫性のある形で製品を長い間提供し続けてきたのも強みだ。Flash Playerのアップグレードが容易な点も特徴となる。たとえ新バージョンで新機能が追加されたとしても、半年もあればインターネット経由で9割方はプラットフォームのアップデートが可能だからだ。

--Adobeにとっての日本市場とは?

日本は先端を走る市場だ。携帯の例でいえばNTTドコモが挙げられる。デジタルイメージングの市場として米国に次ぐ規模であり、Adobe Flashプラットフォームを拡大するうえでのビジョンがそこにある。Photoshopといった製品だけでなく、RIA製品も密接に結びついている。これは、日本がビジュアルコミュニケーションの市場だからだと考えている。Flashベースのコンテンツでコンテストを毎日開催し、毎月の勝者を選ぶイベントを開催しているが、こうしたチャンピオンになるのは日本からの出品者が多い。主な内容は個人や企業がブランディングのために作成したアプリケーションで、中には仕事の問題を解決するようなツールもある。インタラクティブでありリッチ、そして問題解決の視点で広く評価されているから(コンテストは投票制)だと考えている。RIAに対する意識もそうした考えが反映されているのだろう。