ネット法でバラ色になるのは、「ほんの一瞬」

JASRAC 常務理事の菅原瑞夫氏

この段階ですでに、「ネット法」「日本版フェアユース規定」を巡る議論が陰の主役となっていたが、安念氏はあらためて、これらに対する意見をパネリストに求めた。

JASRACの菅原氏は、「ネット法でバラ色になるのは、ほんの一瞬のこと。ネット法推進者は、『著作権者には適正な対価が還元される』と説明するが、誰にとって"適正"であるといえるのか。また、日本版フェアユース規定は、米国のフェアユース規定のように『非営利の場合に限る』などといった言及がなく、何のための規定なのかさっぱり分からない」と述べた。

ホリプロの堀氏は、「総務省の委員会の席で、ネット法推進者側の弁護士に『ネット法ができればコンテンツ産業が拡大するという根拠は? 』と聞いたところ、『インターネット人口が増えているからだ』というあいまいな回答だった。要するに、誰かが安くコンテンツを使いたいから言っているだけのことで、根拠のない"おとぎ話"に近い」と一刀両断。

「誰がネットの流通を許諾する『ネット権者』になるのかもあいまいだし、『日本版フェアユース』と言っても、何が『日本版』なのかも分からない。いずれにしてもトンチンカンな議論だ」と強烈に批判した。

コンテンツホルダーには「コントロールする権利」必要

慶應義塾大学の岸氏も、「立法論から言えば、権利制限をするからには、権利制限をせざるをえない公益性が必要だが、これもあいまいで、ネット法は最低・最悪だ。日本版フェアユースは、技術進歩に対応するベンチャーの起業促進をうたっているが、欧米ではビジネス目的でフェアユース規定があるわけではなく、こちらも最低・最悪」と述べた。

安念氏はここで、「ネット法論者に近い立場と思われている可能性がある川上さんはどうですか? 」とドワンゴの川上氏に水を向けた。

これに対し川上氏は、「ネット法の議論は実はピンとこない。コンテンツの世界は"言い値"が重要な部分があり、ある程度コンテンツホルダーがコンテンツをコントロールする権利が必要なのではないか。ベンチャーがトライアルする際は、コンテンツとは違った技術的部分でのクリエイティビティが求められるので、コンテンツをただで使えればいいという議論は少し違うのではないか」と話した。

民放連の砂川氏も、「ネット法論者は、自分がコンテンツの生殺与奪権を握りたいという思惑が透けて見える。だが、フェアユースに関しては、論文のネット閲覧などができるようにしてもらいたいという思いもある」と述べた。

ネットならではの「オリジナルコンテンツ」を

中央大学法科大学院 教授で弁護士の安念潤司氏

安念氏は「ネット法反対集会のようになってしまいましたが」と会場の笑いを誘ったが、「それでは今後どうすればいいのか」についてパネリストに質問した。

堀氏は、「日本のコンテンツには日本語という制約があるが、極めて質が高い。これをどうグローバルに広げていくかが必要」と指摘。菅原氏は、「日本で新しいコンテンツビジネスのモデルを作った上で、ビジネスモデルごと海外に打って出るのもいいのではないか」と提案した。

岸氏も、「ネット法を批判するからには、対案が必要。そのため、(1)権利処理を円滑にする仕組み、(2)コンテンツ製作力の強化、の実現を図る政策が必要」と発言。砂川氏は「ネットならではのオリジナルコンテンツを出していくしかない」と指摘。

川上氏は、「冒頭でも述べたように、新しいコンテンツのプラットフォームが必要になる」と話した。

パネルディスカッションの最後に安念氏は、「苦しい状況になると人間は起死回生の策を求めるものだが、ネット法などもそれに近いのではないか。だが、苦しい状況でも地道に良いコンテンツを作り、コンテンツやビジネスモデルを海外に展開していくことが必要であることが、今回のシンポジウムで確認できた」と述べ、議論を総括した。