「コンテンツの流通促進」は真の国益か?
通商産業省(当時)に入省後、小泉純一郎政権下で竹中平蔵氏の秘書官も務め、小泉内閣のほとんどの改革に携わった経験を持つ慶應義塾大学大学院の岸氏は、「コンテンツの流通促進は、本当に国益となるのか疑問」と問題提起。
「手段と目的を履き違えると大変なことになる。日本がコンテンツ産業のどういう分野で勝とうとしているのかをはっきりさせる必要がある。現在政府の知的財産戦略本部などで行われている議論は、世の中を間違わせる可能性がある」と、著作権を制限するネット法(※1)や日本版フェアユース規定(※2)の導入に関する議論を批判した。
※1「ネット法」=今年3月17日、政策研究大学院大学学長の八田達夫氏が代表を務める民間研究団体「デジタル・コンテンツ法有識者フォーラム」が開催したフォーラムで発表された、ネット上の著作権を制度的に制限しようとする案。同案では、ネット上の流通に限定した、デジタルコンテンツの使用権(ネット権)を創設。このネット権を、映画製作者や放送事業者、レコード会社に付与し、著作権者は、コンテンツのネット上での使用に対する「許諾権」を制限されるとしている。
※2「フェアユース規定」=アメリカ合衆国著作権法などが認める、著作権侵害の主張に対する抗弁事由の一つ。著作権者に無断で著作物を利用していても、その利用がフェアユース(fair use) に該当するものであれば、その利用行為は著作権の侵害を構成しないとされる。日本においても、内閣官房知的財産戦略本部の専門委員会で導入が議論されており、同委員会は「日本版フェアユース」導入を求める報告案をすでに作成している。
日本民間放送連盟(民放連)で著作権業務などを担当した経歴を持つ立教大学の砂川氏は、「『流通促進』という言葉がまずおかしい。まず『製作促進』であるべきだ。コンテンツ産業では、クリエイターを初めとするいろいろなプロフェッショナルが必要だが、テレビの製作会社では最近、離職率が非常に高くなっている。まず、コンテンツの製作を行う人材の育成が急務だ」と強調。
さらに、「現在のコンテンツを巡る議論は、産業論一辺倒になっている。コンテンツ産業も人間と人間がやることで、強引に政策を進めると必ず反発が地下に潜る。著作権者の権利を制限するネット法は米国のかつての『禁酒法』に近く、ビジネスはそこでは動かなくなる。もっと文化的な側面の議論も行うべきではないか」と述べた。
テレビ番組の製作本数は激減
権利者でもあり、コンテンツ制作者でもあるという立場にあるホリプロを率いる堀氏は、「実はこのシンポをニコニコ動画で生放送しないかと提案したのは私」と"意外"な事実を明らかにした後、「この年末にも、多くの人がテレビ番組を見ると思うが、実は番組の製作本数は激減している」と衝撃的な事実を説明。
「過去の番組をどうするかだけでなく、未来のコンテンツをどうするかを考えなくてはならない。ネット法は、誰かがコンテンツを安く使いたいから言っているだけではないか」と指摘。「何でもただで見られたらいいのではなく、新たなビジネスモデルを作らなければならない」と訴えた。
JASRAC 常務理事の菅原瑞夫氏は、「ネット法ができると誰が得かを考えると、唯一通信事業者だけが得になるのではないか。でもそれも非常に短期間だけの話で、コンテンツは作り手と受け手がつくっていく文化であることを考えると、コンテンツをただにしてしまおうというような議論はやはりおかしい」と指摘した。