日本音楽著作権協会(JASRAC)は9日、「コンテンツの流通促進に本当に必要なものは何か」をテーマとしたシンポジウムを、東京都千代田区で開いた。パネルディスカッションではパネリストから、「ネット法ができればコンテンツ流通が促進されるというのは根拠のない"おとぎ話"に近い」など、自民党などで議論されているネット法に批判的な意見が相次いだ。
NHKの関本氏が「NHKオンデマンド」の見通し説明
JASRACでは、今年3月にも「動画共有サイトに代表される新たな流通と著作権」をテーマにシンポジウムを開催。新たなネットビジネスモデル構築の必要性についてパネリストらが議論した。
今回のシンポジウムは、その時の議論を引き継ぐ"続編"と位置づけて開催。その模様は、動画投稿サイト「ニコニコ動画(冬)」のニコニコ生放送で生中継された。
シンポジウムではまず、NHK放送総局特別主幹の関本好則氏が特別講演。1日にスタートしたテレビ番組をストリーミング配信する「NHKオンデマンド」について、権利許諾をどのように行ってきたかなどについて話した。
関本氏は初めに、NHKオンデマンドが1日のスタートから7日までの1週間に、登録会員数が約8,000人、PCからのNHKオンデマンドサイトのページビュー(PV)が230万PV、映像を見た回数は、視聴(トレーラー)を含めて約7万5,000回だったことや、男女とも30~50代の視聴者が多いことを明らかにした。
「3年後に単年度黒字目指す」
その後、NHKオンデマンドに関する実演家らとの許諾権交渉の状況について説明。大河ドラマやNHKスペシャルなどを放送後1週間程度配信する『見逃し番組』については、権利者団体らとは団体交渉でほぼ合意済みであるが、調達映像や写真・CGに関しては、映画会社、新聞社、雑誌社などとの交渉が一部難航していると話した。
また、こうしたプロ(放送料支払い対象者や著作権者)とは別の、協力者や一般人など放送料対象外の人達に関しては、「個々人を対象にした権利処理が必要で、作業量が膨大となっている」と交渉の難しさを説明。過去の人気番組などを配信する『特選ライブラリー』についても、同様の状況であると述べた。
NHKオンデマンドの今後の見通しについては、月額1,470円(税込)の「見逃し 見放題パック」や特選ライブラリーのパックを40万世帯が視聴するようになれば、「3年で単年度黒字、4年で累積赤字も解消になる」との見通しを説明。
その上で、「成功するかどうかは知恵と工夫にかかっている。番組の二次利用しかしてはいけないという足かせがあり大変難しく、新しい目玉をつけないと普及はしないのではないか」と発言。
さらに、「(PC以外のアクトビラやSTB経由の)テレビでの視聴が増えていけば、成功に近づくのではないか」と話した。
「データがコンテンツ」のビジネスには限界
その後開かれたパネルディスカッションでは、前回3月と同様、ニコニコ動画を運営するニワンゴを傘下に収めるドワンゴの代表取締役会長の川上量生氏、慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 教授の岸博幸氏、立教大学社会学部 メディア社会学科 准教授の砂川浩慶氏、ホリプロ代表取締役会長兼社長 CEOの堀義貴氏、JASRAC 常務理事の菅原瑞夫氏の5人がパネリストとなり、中央大学法科大学院 教授で弁護士の安念潤司氏をコーディネーターとして活発な議論が行われた。
安念氏は冒頭で、「他の産業では、製造物、生産物の質が最も話題となるものだが、コンテンツの分野では"流通"が話題の中心となっていて大変不思議に思っている。パネリストの方々にはまず、そもそもなぜ『コンテンツの流通促進』が言われるのか教えていただきたい」と、問題提起を行った。
ドワンゴの川上氏は、「そもそもデータがコンテンツとなっている点に、今のコンテンツ産業の限界がある」と指摘。「ネット時代においては、データがコンテンツである限りコピーされるので、コピーされないコンテンツのプラットフォームが必要となる。そのためには、サーバ型のコンテンツが適しているのではないか」と持論を述べた。