最初の一歩を踏み出さないと始まらない
では逆に、学生が理想とする働き方とはどういうものなのか。源馬氏は理想のプログラマ像を次のように語っている。
「自分はコードを書くのが好きだが、やれと言われてやるのは嫌。好きなコードを書いていて、それが評価されるという形が理想。そしてそれができているのがアルファギークの方々だと思う」
これを聞いて谷口氏は「自分をアルファギークだとは思っていない」と反論する。
「他人から見たらそうかもしれないけれど、そうなるまでに地道な努力をした過程があり、楽をして今の立場になったわけではない。直也さんも自分のコードを地道に外に出しているうちに周囲がアルファギークと呼ぶようになった。みんなそういう努力をしてきた」
現在アルファギークと呼ばれる人々も、世間から注目されなかったフェーズを経ているということだ。ではそこから抜け出して日の当たる場所に出るにはどうしたらいいのか。たとえばひが氏はSIerに就職して受託業務をこなしつつ、一方で自分でフレームワークを作って会社、そして社会に認められた経緯を持つ。
「私もSeasarを出す前は普通のプログラマだった。ただ、設計する人もコードを書けないと将来行き詰まるという考えは持っていて、丸投げ案件をやっているSIerに先は無いと思っていた。なのでもっとコードを書ける人、理解できる人を育てないとダメだということを言い続けてきた。Seasarを出したことで自分がコードを書けることを会社にアピールできたのが、今の自由な立場につながったのだと思う」(ひが氏)
これは稀な成功例であり、「運が良かっただけでは」(小飼氏)という声もある。「でもやらなきゃ」とよしおか氏は強く呼びかける。
「ここにいる200人はわざわざ自分でここに来た。上司に言われて来たのではないのが奇跡。そういう行動を積み重ねていけばいつかは自分のものになる」
「SIerにいて管理職へのキャリアパスが敷かれていることに反発しつつも、仕方ないと思っている人は多い。でも最初の一歩を踏み出さないと人生は何も変わらない。そのためにはOSSが適している」(ひが氏)
ひが氏はOSSを活動の場とした理由は、社内で開発をしているよりもOSSの方が多くの人に評価してもらうことができるからだという。ひが氏が世間での評価を高めたことがきっかけで、今では社内でもコードの重要性が認識され、教育にも力を入れるようになったとのことだ。
よしおか氏は、益子氏の「中国やインドに比べて日本のIT業界に足りないものは何か」という質問に対しても次のように答えている。
「技術に対して真面目に取り組む姿勢が違う。それから技術に価値があるとアピールすようようなギークも足りない。したたかに自分の半径5メートルからアピールできる環境を作っていかないと。影で文句だけ言っていてもはじまらない。今が嫌だと思うのなら自分でやるしかない」
面白い会社を知ってもらうことも大事
結局は努力を怠らないのが大事ということになるが、一方で田村氏は「IT業界に盛り上がって欲しいのに、自己責任で済ませたのでは人は集まらないのではないか。業界を活生化させるにはそういう自己責任論だけではダメなのでは」と口にし、それを受けて伊藤氏が学生に対して次のように質問した。
「僕は面白い会社をたくさん知っていて、そういう会社に学生さんにたくさん入ってもらい、そうでない会社は淘汰されればいいと思っている。それで逆に聞きたいんだけど、学生が会社を選ぶとき、どういう会社が面白いと思うのか、どういう情報が欲しいのかを教えて欲しい」
益子氏は以下のように答えている。
「文章で就職情報を見ても、どう違うのかなんてことは分からない。結局は人と人の関係、実際の仕事現場を見せてくれるのがいい。なのでインターンのような制度はアピールには最適だと思う」
インターンについては小さな会社でも比較的始めやすいことであり、学生側からの評判もいいようだ。それに加えてひが氏は「社員がブログやイベントで実感を伝えるというのもいい手段」だと指摘している。確かに、今回登壇したアルファギークの人達の会社が魅力的だというのは十分に伝わってくる気がする。
同氏は最後のまとめの中で、これを自身で行動に起こすことを宣言している。
「まずは行動しよう。自分自身も行動していきたい。今後月一で『ひがやすを飲み会』を開催する。月始めにブログで告知するので、学生に限らずぜひ参加してほしい」
2時間にわたるディスカッションは特に結論を出すこともなく終了したが、IT業界を盛り上げていきたいという熱気は強く伝わってきた。