また、何にでも変身できる魔法のチップであるFPGAのセッション5ではXilinxのVirtex-5 FXTとAlteraのStartix IV FPGAが発表された。いずれも集積度や機能を強化して魔力のカバーする範囲を拡大しており、FPGAの成功は安泰のようである。
そして、このセッションでは、SISD、SIMD、MIMDなどのプロセサの処理形態の区分を行ったことで有名なスタンフォード大学名誉教授のMichael Flynn教授が登壇し、先生が創立したMaxeler社のMAXwareについて発表を行った。音響パルスからのエコーを大量のマイクで拾い、それを解析して地中の油田などを探査するアプリケーションを例にしてFPGAで専用ロジックを組むことで、どれだけの高性能が得られるかについて述べられた。なお、Maxeler社は、このようなFPGA処理のコンサルティングとツールを提供する会社である。FPGAの当たり役の処理では、圧倒的な性能向上が得られることは、従来の研究でも明らかであり、一定サイズのPGAの価格の低下により、FPGAマジックの適用範囲は広がると思われる。
また、FPGAはフレキシブルであるが、価格が高いとか、消費電力が大きいという問題がある。これを解決する手段として、AlteraはHardCopyというLSIを提供している。HardCopyでは、AlteraのFPGAでデバグが完了すると、量産時には簡易型のASICに焼きなおすのである。FPGAの未使用の部分を削除してHardCopyに置き換えるとゲート数は1/10程度となるという。
スーパーコンピュータのセッション4では、世界で始めて1PFlops(ペタフロップス)を超えたRoadrunnerシステムに使用されているPowerXCell 8iプロセサの論文が発表された。PowerXCell 8iはPS3のエンジンであるCELLプロセサをベースに、科学技術計算向けに倍精度浮動小数点演算性能を改善したチップであるが、Roadrunnerのように大規模システム向けにエラー検出機構やECCなどが組み込まれていることが明らかにされた。
また、25日のThrun教授のキーノート講演は楽しい講演であった。Thrun教授のStanford Racingチームは2005年のDARPAグランドチャレンジで優勝し、2007年のUrban Challengeで2位になったという実績を誇っている。最初にDARPAからチャレンジが発表されたときには、お金が無いので、スタンフォード大学で車の自動操縦に関する講義を行うことにしたら20人程度の学生が集まり、そのメンバーが献身的に働いてくれたという。それでも、彼らには給料を支払う必要はなく、終わりに単位をやれば済むので安上がりである。
Cars that Drive Themselvesのキーノート講演を行うSebastian Thrun教授 |
イランやアフガニスタンに似た砂漠を走行するグランドチャレンジでは、路面を認識することが難しく、レーザーセンサーで前方を観測するが、車がバウンスすると、センサーの角度が変わり、車体の動きは慣性センサーで検出して補正するのであるが、完全には補正しきれず、前方に1m程度の高さの障害物があるように見えてしまう。そして、車はそれを避けようとして、崖のほうにハンドルを切ってしまう。また、レーザーセンサーは高精度であるが、20m程度の前方までしか観測できない。しかし、最高70Km/h程度で走るので、これでは1秒先くらいの距離しか見ていないことになる。更に先を見るためにビデオカメラをつけたが、未舗装の道路を認識することが難しい。両脇の崖に比べると道路は平坦であるので、平坦な部分を見つければよいというアイデアを出した学生がいて、実装してみたら、一番平坦に見えるのは、道路ではなく空だったというような面白い話が聞けた。使用したコンピュータは4コアチップのシステムが2台で、計算パワーよりもアルゴリズムが重要であるという。
もともとのDARPAの意図は、戦場での兵士の損耗を減らすための自動操縦車両の開発であるが、自動操縦で安全に走る車が出来れば、車の衝突強度を減らして燃費を改善したり、高速道路の車間距離を半減して輸送力を倍増することが出来ると述べていた。
また、今回は第20回の節目ということで、8月25日の昼食時にケーキカットが行われ、デザートとして、参加者に振舞われた。
25日の昼食時の行われたHOT CHIPS 20周年のケーキカット |