東京一極集中を打開できるか

F-Ruby設立の背景にある無視できない現状の1つとして、ソフトウェア産業の拠点が東京都に集中している点が挙げられる。F-Rubyの会長に就任した福岡CSK代表取締役社長、西岡雅敏氏によると、福岡県はソフトウェア分野の事業所数、従業者数、売上高ですべて5位となっている(1位東京都、2位神奈川県、3位大阪府、4位愛知県)。5位とはいっても、売上高の比率から見ると、東京都は60%以上であるのに対し、福岡県はわずか2.6%を占めるにすぎない。このうち、同業との契約を除くと、実質の数字は「1.5%程度ではないか」という。圧倒的に東京都に集中していることがわかる。「このような状況で地元のエンジニアたちがキャリアプランを描くことは簡単ではない」と西岡氏は語る。

「東京中心の産業構造の中で福岡県を活性化させるためには、独自性の追求が必要」と西岡氏。「そこでRubyは大きな武器になるのではないか」と期待を寄せる。西岡氏はさらにソフトウェア産業の活性化にあたって大事なこととして、「システムは手段に過ぎない。システムを作るのが目的ではなく、ユーザーの要件や期待に沿うこと、役に立つことが大切」との考えを説明した。

この考えに基づき、F-Rubyでは、ユーザー企業に顧問として参加を要請。楽天、カカクコム、クックパッドなど、Rubyを実際に使っている企業から賛同を得ている。

中でも楽天は、2007年にまつもと氏を技術研究所フェローに迎え入れるなど、Rubyを積極的に活用しようとしている企業だ。同社で技術研究所長を務める森正弥氏は、Rubyの魅力として生産性の高さを挙げる。楽天の開発は、社内開発とオープンソース利用の2本柱だが、Rubyでは社内でコミュニティが生まれ、開発部門に活気が戻ったという。そこで、Rubyの能力を評価するため、あえて一般ユーザー向けのサービスで利用し、生産性、セキュリティ、性能、運用性を検証したところ、生産性が他の言語の1.3~3倍となるなど、ポジティブな結果が得られたようだ。

楽天は同日、F-Ruby設立に併せ、福岡県に開発拠点として「福岡テックセンター」を立ち上げることを発表している。

また、450万人のユーザーを抱える日本最大の料理レシピサイト、クックパッドは、Ruby on Railsでサイトを大規模リニューアルしたという。同社CEOの佐野陽光氏は、Rubyの長所を「ビジネス価値に照準を合わせながら開発作業が進められる点」と分析する。

「技術は手段に過ぎない。Rubyを使えば、煩雑な作業を避けられるため、価値を創造することに力を集中させることができる。(顧客中心の視点を持つ)日本人には適した言語なののではないか」(佐野氏)

世界最大・最先端を目指す3つの柱

福岡県を世界最大・最先端のRubyビジネス拠点にするために、F-Rubyでは取り組みの柱として、(1)企画・開発力向上、(2)ビジネス情報発信、(3)経営力支援、の3つを挙げている。

(1)は、ソフトウェア技術の向上や新規ビジネスの開発促進を意図したもの。具体的な計画としては、表彰制度の設立、Rubyの講習やビジネス研究を進めるサービス企画開発研究会の発足、Rubyビジネス・コモンズの勉強会などによる技術者育成など。F-Rubyの活動土台となる部分だ。

(2)は、F-Ruby参加企業の活動を外に発信するための取り組みで、開発したサービスやコンポーネントをショーケースとして展示するWebギャラリーの開設、Ruby関連の取り組みを発表するフォーラム「Rubyビジネスフォーラム in 福岡」の開催などを企画中。このほか、東京や米国など国内外に向け、成果や取り組み内容を発信していくことも計画している。すでに今年9月にシリコンバレーを訪問し、プレゼンと商談会を行うことが決まっているという。

(3)は、資金面での援助。フクオカベンチャーマーケット(FVM)での商談会、九州ベンチャーパートナーズ(KVP)の投資ファンド活用などを通して支援していく計画だ。

事務局である福岡県商工部商工政策課によると、F-Rubyとしての予算は「今年度はない」という。たとえば、9月に計画しているシリコンバレー訪問では、国際交流課の予算が充てられる予定だ。まずは、「参加企業が150社となり、全社がRubyを使ってソフトウェア開発をするような状況を目指している」という。