1個のファイルの例えだけでは、ファイル仮想化のメリットを伝えきれないので、もう少しストレージらしい例を挙げてみよう。
システム統合のため、300GBのデータをNAS「emc1」からCAS「emc2」に移行することになった。サイズがサイズだけに移行時間も相当かかることが予想されるが、このデータはオープンデータなので、長時間のダウンタイムは許されない。つまり移動中も移動後も、ユーザに透過的なアクセスを提供する必要があるのだが…。
Rainfinityはマイグレーションツールとしてもその威力を「他社にはない」(高野氏)かたちで発揮する。他の仮想化ソリューションとRainfinityが大きく違うのは、インバンド(in-band)とアウトオブバンド(out-of-band)を自動で切り替えられるところだ。通常、Rainfinityはストレージの制御情報などをモニタリングするだけであり、データを直接中継することはない(アウトオブバンド状態)。だが、上記の例のようなデータ移行時になると、スイッチと連携してインバンドに自動で切り替わり、クライアントユーザからのアクセスを受け付ける。もしユーザがオリジナルデータに書き込みをした場合、Rainfinityが「emc2」(移行先)を更新する役割を果たす。
このin/outの自動切り替えにより、インバンド型の最大の弱点と言えるパフォーマンスのボトルネックとなることを防ぐことができ、ほとんど無停止状態でのデータ移行が可能になるというわけだ。
Rainfinityのメリット
ここまでの話でわかるように、Rainfinityによる仮想化の特長は以下の3つに集約される。
- エンドユーザおよびアプリケーションへの影響を最小限に抑えた管理
- ストレージの階層化(差別化)によるデータの最適配置
- 既存のファイルサーバのファイルシステムをそのまま活用可能
とくにEMCのポリシーがよく表れているのは2だろう。「すべてのシステムがTier 1(プライマリ)ストレージである必要はない」(高野氏)、つまり"安いストレージに置いてもかまわないデータをプライマリに置いておく必要はない"のである。インテリジェントにデータを再配置することで、ストレージの使用率を向上させ、新規のストレージ購入を抑えるなど、TCO削減につなげることができる。また3に関しては、同社のNASだけでなく、CAS(EMC Celerra)とNetAppのAPIにも対応、UNIX/Windowsファイルシステム機能も使用できるので、ヘテロジニアスな環境においても、仮想化後にNASの機能が失われるようなことはない。
Rainfinityの可用性
高野氏によれば、以下のような状況にある企業にRainfinityの導入が薦められるという。
- ファイルサーバ統合を今までの1/10の時間で行いたい
- ストレージ使用率を30%向上させたい
- データ容量増加に伴うストレージ購入コストを半分に抑えたい
- サービスレベルを24×7(ノンストップ)に改善したい
仮想化のメリットのひとつに「可用性の向上」というポイントがよく挙げられる。これは「言い換えれば"利用不可能になる状況をいかに回避するか"ということ」だと高野氏は言う。「米国では、とにかくまず統合してそれから管理する、という"プロビジョニング"が一般的な仮想化のあり方。一方で日本の企業に最も求められるのは"使い続けられる"、すなわち止まらないこと」(高野氏)だという。そして、阪神大震災のような大災害が起きても止まらないシステムが求められている現在、「可用性の向上」こそがファイルサーバの仮想化で最も求められる部分である。
今後、ディザスタリカバリ(障碍復旧)関連のソリューションはますます注目されることになるだろう。必然的に仮想化、その中でもSAN仮想化のように大規模ではなく、スモールスタートでも始められるRainfinityのようなファイル仮想化ソリューションは、大企業だけでなく、膨大なデータ管理に苦心している多くの企業にとって興味深いソリューションではないだろうか。
後編では、EMCの"本領"とも言うべきSANの仮想化ソリューション「Invista」についてレポートする。