国家の支援がおよびにくい中小企業
テレビメディア業界向けにITソリューションを提供している中国の中小企業には、3つのタイプがある。第1は、ハードウェア設備やソフトウェアの販売代理をする企業。第2は自社製品の開発・販売を行う企業で、営業利益率は前者に比べ高い。第3はプロジェクト請負型企業で、ハードとソフトを織り交ぜたシステムインテグレーションと施工を行う。
ただ、中国におけるテレビ局は、あくまで国家機関であり、「党の咽喉仏(のどぼとけ)」といわれる宣伝工作機関である。したがって、テレビ業界にITソリューションを提供するといっても、国家がその背後にある大手企業、たとえば国有のIT企業コングロマリットである中国電子信息産業集団(中国電子)などは、当然圧倒的な"競争力"をもつわけである。
一方、民間の中小企業には、国家の重点育成政策や税制優遇がおよぶことなどは、まず皆無と言っていいだろう。待遇面でも見劣りするため、スタッフの流動性が高く、結果として新製品を開発する余力がない。一方、一定の開発力をもつ企業でも、ソリューションに不具合が発生したなどの理由でプロジェクトの対価を受け取れず、最終的に会社倒産まで余儀なくされたという事例が起こっている。これは、技術志向型の中小企業にとっては極めて大きなリスクといえよう。
効果が薄い従業員との秘密保持契約
スタッフの流動性の高さといえば、同一業界内の人材移動が非常に頻繁であるという状況は、中小企業にとって大変な脅威である。とりわけ販売スタッフの流動は日常茶飯事と言われ、いまでは中堅技術者、中堅営業職をいかに社内にとどめられるかが、ネームバリューで劣る中小企業にとって死活問題となっている。
無論、労働契約の締結時に、ほとんどの企業は秘密保持契約を結び、企業秘密の保全に関する厳格な条項を被雇用者に守らせる。しかし、それにどれだけの実効性があるかといえば、ほとんどなんの拘束力も持っていないと断じて差し支えないだろう。
こうした状況から、社員に対するストックオプションの付与やキャリアパスの明示などが有為な人材をとどめるための主要な手段となった。海外製品の代理販売をおこなう会社などでは、外国での研修に派遣する、といったインセンティブを与える場合もあるが、こうしたチャンスをモノにできる人はほんの一握りにすぎない。一般に、中国の中小企業では、働きながら学ばせるOJT方式が主流となっている。