それから1年ほど経った2005年11月。次のステップとして、商品のデザインに関するガイドライン作りをスタートさせた。これまで沖データでは、はじめに仕様に基づいた設計を行い、その上でデザインをしていた。しかしこれからは、まずデザインを先行させ、そのデザインに合うように設計するやりかたに変える必要があった。グローバルブランド確立に成功している企業の多くが、そうしたスタイルの商品作りをしているからだ。

しかし、単にデザインを先行させればよいというわけではない。一貫した商品の販売戦略と合わせてプロダクトのデザインを強化するためには、デザインの方向性はどうあるべきか、競合の状況やユーザの動向そしてオフィス環境など様々な要素を検討し、そのコンセプトをまとめなければならなかった。

そこでスマート、シンプル、ソリッドの3つの要素からなる「S3(以下Sキューブ)」という製品デザインのコンセプトをまとめ、関係者に知ってもらうために、それぞれの要素を説明する言葉と表現するカタチ、3つの要素を組み合わせたときのカタチを具体的なグラフィックイメージとして明示した。これを見れば、デザイナーや設計担当は完成された製品の外見や内部構造、操作性等を想像しながらデザイン・設計を進めることができ、販売担当はどうやって売っていくかがイメージできる。

「Sキューブ」の要素のひとつであるソリッドをイメージ化

宮本氏らがまとめた沖データのデザインコンセプトは、「シンプル - 装飾的」を横軸に、「明るい-暗い」を縦軸に取った分類マップで見た場合、シンプル-明るいゾーンにポジショニングし、やや装飾的ゾーンにもはみ出すこだわりを持たせることにより、存在感はあるが親しみの持てるデザインを指向している。ただそれはあくまで方向性を指し示すだけでデザイナーや設計者の創造性を束縛するものではないと宮本氏はいう。

「この場合はこうしなさいなど、杓子定規に規定して、創造性の芽を摘むようなことはしたくありません。ガイドラインには細かい具体的な例は示していますが、デザインの場合に限っては方向性のみを示すにとどめています」

宮本氏の統括するグローバルブランドの役割は、個々の製品のデザインではなく、大きな方向性。つまりどこへ向っているのか、製品ポートフォリオとしてどういう一貫性のあるイメージと継続的なメッセージを発信していくのかのフレームワークを提供するのみだ。規定しすぎると画一化したデザインになってしまい、デザインの自由度、創造性が失われてしまうからだ。

このようにデザインの方向性を示し、ブランドとして統一していくことは、お客様に対するメリットの他、内部に対してもメリットがある。たとえば製作時間とコストだ。従来は新しいパッケージングなどのデザインを最初から何種類も造っていたが、ガイドラインができたことで設計プロセスが4分の1くらいに短縮できたという。

プロジェクト前製品イメージ(左)と新製品デザインイメージ

プロジェクト前製品イメージ(左)と新製品デザインイメージ