O2のTanya Field氏

PCのインターネットは広告が支えるビジネスモデルでほぼ固まりつつある。が、モバイルでは広告の可能性はどうだろうか? 現在、広告を表示するプル・タイプ、SMSなどの形でユーザーに広告を送るプッシュ・タイプ、広告ベースでコンテンツや利用料金を無料あるいは割引するタイプの3タイプが考えられるが、現在のモバイル広告の多くが1つ目のプルタイプで、3つ目の広告スポンサー型はほぼゼロだ。

3つ目のスポンサー型のモバイル広告を3月から3カ月間、パイロットとして行うという英国の大手オペレータO2(Telefonica傘下)のコンテンツ・ディレクター、Tanya Field氏は、モバイルでの広告に対して前向きな姿勢を示す。だが、複雑な心境も見え隠れする。

「モバイル広告はオンライン広告の2%を占めるに過ぎず、まだニッチ市場」という。だが、市場の可能性は大きい。その理由は、常時オン、SIMによりユーザー情報や位置情報を把握できる、即時性、パーソナルといった携帯電話の特性が広告を打つ対象として適していること、それに高い普及率がある。広告主は、ターゲットが絞れる効率のよいメディアを求めており、効果も測定したいと思っている。TVなどと違って、携帯電話はこの条件を満たすことができる。さらには、エンドユーザーを対象に行った調査でも、「ユーザーが30~50%がモバイルでの広告に受容的」など、好意的な結果が出ているという。

つまり、携帯電話は広告を配信する対象として適しているという点では疑いの余地はないといえるが、誰が・どのようにアプローチすべきか、ここが課題となりそうだ。

実際、現状の携帯電話のビジネスモデルでは、広告モデルを導入しにくい。コンテンツのダウンロードサービスのほとんどが有償であり、これに広告がつくことをユーザーは受け入れないだろう。また、オペレータがポータルなどの形でブランディングしており、サードパーティがブランディングする余地は少ない。

Field氏は、モバイル広告成功のためには、コンテンツとの連携が不可欠と考えている。そのためには、「これまでの閉鎖的な環境からオープンなインターネットコンテンツへとアプローチを変え、コンテンツを分類して広告主にわかりやすくすべき」とField氏。

理想としては、「関連性があり文脈に基づいた広告がコンテンツを閲覧する中で表示され、ユーザーのエクスペリエンスを強化し満足度向上につながること」(Field氏)。たとえば、ある車のブランドに関するコンテンツを購読するユーザーは、ある特定のメーカーの機種に関心を持っている可能性が高い。複数の車に関するレビューを見た後に、ユーザーが選択したある機種の広告動画をダウンロードできるようにする、などの展開が考えられそうだ、とField氏。

O2のトライアルでは、英Sony Ericssonの「K800i」「K750i」を使って、ゲームコンテンツとポータルの2種類で広告を実験的に配信する。ゲームでは、広告の表示頻度に応じて4レベルの料金を用意、広告の表示頻度が高い場合は無料で最高で月額5ポンド。ポータルでは、一部のユーザーに対しバナーなどの形で広告を表示するプル型を実験する。これらのトライアルの動向を見て、適切な料金ラインや配信モデルを検証していくという。

3GSMではこのほか、英VodafoneのCEO、Arun Sarin氏も基調講演でモバイル広告に言及した。また、昨年末には広告ベースの携帯電話オペレータBlykが立ち上がり、MVNOとして今年の夏に事業を開始することが決定している。

このように、モバイル業界が広告を新しい収益源として利用できないかと本格的に探りはじめたといえる。ここにはもちろん、GoogleやYahoo!など、PCインターネットの世界で広告モデルを確立したプレイヤーも入ってくることだろう。2007年はモバイル広告にとって新たなスタートの年となりそうだ。