クラウド管理ソフトウェアの比較に入る前に、まずは現在のビジネスとクラウドの基盤の関係を整理し、ITに求められる機能を明らかにしておこう。
なお、製品の特長を先にご覧になりたい方は、本特集の目次より、Part 2(4ページ)以降へお進みいただきたい。
ビジネス要件と、それを実現するインフラの課題
昨今のビジネスにおいて重要性の高い要求事項としては「スピード」、「柔軟性」、「多様性」が挙げられる。しかし、ビジネスを支えるICTインフラは、必ずしもこれらの要求に対応できているわけではない。
仮想化により以前よりは進歩しているものの、そこには依然として様々な課題が残っている。まずはその点を整理しておこう。
スピードの課題
顧客が企業に対して求める「サービス提供開始までの時間」は年々短くなっており、最近では、顧客側でリクエストが生じてから数分でICTサービスの提供を求められるケースも増えている。この傾向は、システム部門から事業部門に提供される企業内サービスにおいても同様だ。利用したい時にすぐに利用できるICTサービスが求められる。
サーバ仮想化で集約したICT基盤では、確かにコンピューティングリソースとなる仮想マシンを即座に作成可能だ。しかし、システムとして稼働させるには、仮想マシンが出来上がった後も、ミドルウェアインストール、ネットワーク接続、セキュリティ設定、バックアップ設定など、やなければならない作業はたくさんある。
これらの設定には非常に複雑な連携が必要で、実作業では広範囲かつ高度なスキルを持つエンジニアが求められる。とはいえ、そのようなエンジニアは限られるため、最終的なインフラの提供開始までに時間を要するケースが少なくない。
この傾向は、開発環境を用意して開発作業を行う場合にはさらに強くなる。というのも、開発環境から本番環境への切り替え作業においても、様々な機能連携に配慮し、複数の設定を変更することが求められるためだ。当然ながら、サービス提供に至るまでにはさらに時間を要することになる。
こうした要因により、仮想マシンをすぐに立ち上げられるようになっても、サービス提供を迅速に行えるようにはならない。その結果、ユーザー部門が、簡易的に利用可能な外部サービスを無断で使用し始める事態に陥り、セキュリティやガバナンスに対するリスクが大きく上昇してしまう現場もある。
柔軟性の課題
近年のビジネスでは顧客リクエストの変化が激しいため、ビジネス規模自体が頻繁に拡張・縮小する。投資やコスト配備もビジネス規模に応じて見直す必要があることから、ICT基盤には柔軟性が求められる。
仮想化環境は、そうした要望に応えられる技術のはずである。しかし、実際の運用では、残念ながらそううまくは事が進まない。特に問題になるのが、コンピューティングリソースを"縮小"させるケース。"拡張"は比較的容易でも、"縮小"は困難であることが多い。
仮想マシンを削除することになった場合、それを実行する前に使用者や使用状況を個別に調べ、削除の可否を確認する必要がある。この作業に時間がかかることが多い。削除作業自体はそれほど難しいものではないのだが、それを決めるまでのプロセスが厄介なのだ。結果として、使用されていない仮想マシンが膨大に存在する非効率なインフラになってしまう。
多様性の課題
ビジネスを遂行する組織の単位は、同一企業内であっても様々だ。グループ企業や部門、または部門をまたいだバーチャルチーム等の多様な組織形態があり、特色や形態の異なるビジネスが並行して進んでいる。
そうした背景を踏まえると、ビジネスに求められるICT基盤とは、利用者が主体となって必要なときに必要な仮想マシンを必要なサービスレベルを作成し、なおかつ他の部門のインフラに影響を及ぼさないものだ。さらに、コスト等の観点から仮想マシンの作成時に承認を必要とするケースもある。
これらの要件は、集約を目的としたサーバ仮想化の機能のみでは実現できない。