続いては、奥村組による『杭芯など位置確認作業と施工検討でのBIM活用事例』と題されたセミナー。登壇した同社BIM推進室 室長の脇田 明幸氏は、BIM活用事例として、1000席規模の多目的ホールの案件を紹介した。BIMを活用することになった経緯として、同ホールの3階客席部分の構造が3階床レベルから鉄骨を跳ね出し、3次元的に交差する複雑なトラス構造であったからだという。
同社のBIM推進室では当時、BIM推進グループとしてスタートしたばかりで、BIMをどのように活用していけばよいのかを試行錯誤している状態であったと明かした。
BIMモデル作成時は、2Dの構造図をもとに関係者と検討を重ね、Revitで作成したBIMモデルで打ち合わせをしたところ、平面図や断面図では見えなかった部分が見えたという。BIMモデルを閲覧するためにNavisworksも活用し、関係者との合意形成を潤滑に進めることに徹したということだ。
脇田氏によれば、打ち合わせでの検討ポイントとなったのは、梁の転びの中心軸、守るべき寸法、フレームの折れ(ねじれ)の3点で、モデルをもとに工事所、管理者、店内部門、鉄骨ファブで納まり検討を行い細部の検討や精度向上を図ったという。検討を重ねた一般図をもとに単品図を作成し、その単品図とBIMモデルの重ね合わせ検討を行い、単品図をもとに鉄骨製作に着手したということだ。
鉄骨の検査を行う際、柱に対して平行直角に取り付いていない仕口部の寸法をどのように検査するのかが課題であったが、これを解決するために3Dプリンターで模型を製作して、どの寸法をどのように採寸するか検討したという。脇田氏はまた、この模型は組み立て手順の確認や着手前のチェックにも役立ったことも明かした。
鉄骨の製品検査と製品確認では、従来のXYZの事前採寸だけでは確認できない寸法をチェックするため、工場でBIMモデルを確認しながら検査したという。
鉄骨建方では、工程の遅れが許されないなか、複雑な仕口の取り付けや主軸の傾いたトラス形状の梁の設置においても、とくに大きな問題点がなくスムースに施工することができたことで、BIMモデルの正確さを確認できたということだ。
最後に脇田氏は、この案件がBIMを施工の日常として実感する良い機会になったと述べるとともに、「"工事所の日常を施工BIMに"をテーマにBIM活用を広げていきます」と意気込みを語り、壇上をあとにした。
続いて、奥村組 BIM推進室の三井和章氏が登壇し、杭ナビ LN-100をiPadアプリ「BIM 360 Layout」による、杭芯など位置確認作業についての話へと移った。なお、三井氏はこの一連の作業を「BIM測量」と呼んでおり、本稿においても同様にこの作業を「BIM測量」と呼ぶことにする。
BIM測量のメリットについて三井氏は、「3DモデルやCADの図面を見ながら操作できるため、座標を選びやすいうえに間違いがなく、また余計な図面を持ち合わせなくても済む」ことを挙げた。
測量モデルを作成する際、オートデスクのRevitで3次元モデルを用意し、アドインソフト「Point Layout」で座標を入力。次に、作成した測量モデルをクラウドサービス「BIM 360 GLUE」にアップロードし、iPadアプリ「BIM 360 Layout」でダウンロードして杭ナビを操作するのに使用しているという。測量後、確認して保存した実測座標があればそれをiPadからクラウドにアップロードして、パソコンに読み込み戻し、実測座標をCSVファイルで出力できることを説明した。
現場での作業の流れは動画を用いて説明した。準備としてまず杭ナビを据え、iPadを用意したのち、iPad上の測量モデルを実際の現場に重ねるため、iPad上の基準点の位置を現場の基準墨と2点合わせて、許容誤差を確認する。 測量作業は、確認したい座標ポイントを選び、該当する現場の墨上にプリズムを持っていき、座標誤差を確認する。実測座標には名前を付けて保存する——といった流れとなると説明した。
次に三井氏は、Androidデバイス向けの「TopLayout」とiPad向けの「BIM 360 Layout」を比較し、それぞれの優劣点をリストアップした。まずはTopLayoutが優れている点として、日本語版で使いやすいこと、スマートフォン向けなので片手で持ちやすいこと、その場で座標を手入力してポイントを追加できることを挙げ、不便な点としてポイントを選ぶ画面でポイントしか表示されないため、数が多いと見分けづらい点を挙げた。
一方のBIM 360 Layoutでは、3DモデルやCAD図を見ながら座標ポイントを選べて見やすいことと、実測した座標をいつでも確認できることが優れているという。弱点としてWi-Fi接続が邪魔されやすいこと、英語版しかないこと、また「BIM 360 Glue」という有料ライセンスが必要であることを挙げた。
次に、BIM測量を使った事例を紹介した。1つ目は杭芯確認に使った事例で、杭工事業者が出した杭芯墨(セパレータ打ち)を全数確認し、300ヶ所以上の杭芯墨を5〜6時間(平均1ヶ所当たり1分)で確認できたそうだ。これは職人対応や休憩なども含む時間で、測量だけに集中すれば倍くらい早くなる。また、設計監理者立ち会いのもと測量手順を説明したところ、BIM測量が「信頼できる計測方法」として認められたとのことだ。
杭芯墨はズレてしまう恐れがあるため杭打設直前の再確認にも利用し、杭の打設後は杭天端の高さ・座標確認にも利用しており、確認した実測座標はすべて保存し、設計監理者へ提出しているそうだ。
2つ目の事例では、杭工事が終わったあとも現場職員が同ツールを使い続け、杭芯の座標ポイントを利用して掘削範囲の位置確認や捨てコンの墨確認に利用したことを明かした。さらに別の現場では、基礎躯体部分の掘削範囲について、掘削後にその法尻位置の確認に利用したという。この現場では別の目的で作成していた基礎躯体のBIMモデルがあり、それを流用して独立基礎の下端4隅にポイントを設け、そこからの離れをコンベックスで確認するという使い方をしたとのことだ
一方、別の現場では掘削床付け確認にも活用したという。基礎・ピット階躯体部分の掘削範囲について土工事業社が掘削したあと、土面の高さ・範囲を確認する。この現場ではBIM測量を行うのに困難な要素がいくつかあった。建ぺい率が高い物件で余剰エリアが少ないため杭ナビを据える場所が限られること、切梁や落下防止手すりを避けて杭ナビとプリズムを直線で結ばなければならないこと、現場まわりの人通りが多くWi-Fi接続が頻繁に途切れた点が挙げられる。さらに掘削深さが深く法面もないため、座標確認したい場所が杭ナビの視界に入るように設置場所を工夫する必要があったそうだ。
奥村組のBIM推進室では、現場でBIMを活用できるように、3Dモデルを活かしたデジタルモックアップや3D工事ステップ、3Dスキャン、点群データとBIMモデルの合成、躯体と設備配管の干渉チェックなど、さまざまな取り組みを行っているという。 全体的にはまだまだBIMの認知度が薄く、BIM推進室から発信していくことで現場でのBIM利用が進むことが多いそうだ。しかしBIM測量については、BIM推進室から現場へアプローチしなくても、「使ってみたい」と現場から問い合わせがあるという。
次に、BIM測量の導入を検討している企業へのアドバイスとして、ポイント名は数字のみにすること(アルファベットや記号を含めるとiPadアプリでの利用時にバグが生じることがあるため)、操作iPad以外のWi-Fiをオフにすること(説明会など大勢の参加者がいる場合、Wi-Fi通信機器が杭ナビと操作iPad間の通信に影響があるため)の2つを注意点として挙げた
最後にLN-100への要望として、接続中のiPadとのWi-Fi接続の安定化と視野角度(下方向)の拡大を挙げた。一方、BIM 360 Layoutへは、日本語化、iPhone・スマートフォン対応、ポイントを座標手入力で追加できる機能の追加をメーカーへリクエストし、このセッションを締めくくった。