イデーらしい細かな造作のバセットソファ
しかし、張り替えて20年30年と、長い時間を経て使い続けられるソファと、数年で廃棄されてしまうようなソファの違いはどこにあるのか。そもそもの誕生背景や作りの違いにヒントがあるのではないか、具体的に知るために、お2人が特にこだわりを感じるという3点のソファについて伺うことにした。お2人のソファ開発に対するこだわりから、読者諸氏が気になる“一生使えるソファ”の秘密が垣間見えることと思う。
まずは2005年、当時のデザイナー兼MD的存在のスタッフが企画を担当し、「(兼任ではあったものの)デザイナーがいて、MDがいて、西山さんに製作依頼をした、初期のトライアングル体制で作られた」(三嘴さん)というバセットソファ。カクカクしい独特のフォルムが印象的だ。
「それまでは自分たちの個性や、時代性もあり、よりデザインに走ったものが多かったんですが、2005年頃は、時代の空気も反映して、よりベーシックなスタイルの家具を作ろうということで、特にモダンデザインを意識して企画開発をしていた時期。そのときのデザイナー兼MDのスタッフが、イデーらしい造形をどうモダンデザインに落とし込んでいくか……おそらく西山さんにはそこまで話してないかと思いますが…そういう想いがあったんだろうと思います。パッと見はモダンデザイン、でもそこにイデーらしい細かな造作を入れていることが特長です」
正直、ここまで細かいと一般のお客様に伝わるのか?という細部にまでとことんこだわりを持って作られたというバセットソファ。西山さんへの依頼もかなり難易度の高いものだったようだ。
「基本的に、四角いものを組み合わせると、単純に立方体同士が重なりあった、“カチッ”としたデザインになります。でもデザイナーさんが意図したのは、モノとモノとがガツンと合わさって、その潰れた感じを表現した意匠にしたいと……アームと背と座が互いにめり込んだようなデザイン。なおかつ肘の部分は本体に乗っているのが一般ですが、あえて半分、外に飛び出している。私たちの常識では考えられないようなデザインを持ってこられた。逆に『コレどうやるんですか』と当時は思いました(笑)」(西山さん)
そもそもイデーは作り手泣かせのデザインが多い、と申し訳なさそうな三嘴さん。しかしだからこそ西清木工所のような「工房」の存在が欠かせないとも言う。
「そういう難しいリクエストに応えてくれる生産者は少ないんです。西山さんは、技術はもちろん、我々のものづくりの精神を理解、共感し、真摯に応えてくださるというのも長年おつきあいしている理由の1つ。大量生産ではないので、難しいことにもチャレンジできる。そういう環境があるんです」(三嘴さん)
西山さんが続ける。
「バセットソファは、ユーザーが肘掛の部分に必ず座るだろうと考えました。そのときに肘が動かないようにするにはどうしたらよいか? 肘掛の中の木材の強度を増し、なおかつボルトを増やして……と何度も作り直したんです」
イデーでは、デザインが変わらない範囲での家具のバージョンアップは常に行なっているという。より良いソファを提供したいというイデーならではの姿勢だ。「ひとつの商品にMDの企画から発売までがだいたい14ヶ月かかります。その間はどういうものを売り出すのかといった話から、どういうデザインにするか、それに弊社ですと通常の試作を3回、二次試作と最終試作の間に共同検査や社内モニタリング、これらの工程を経て発売になります」(三嘴さん)
ベーシックなソファにもユーザー目線のこだわりを
次に伺うのは、クッションタイプのモアナソファ。99年に発売されたというこの製品も、製作側の並々ならぬ思いが隠されている「デザイン的なソファが多かった時代に、これぞソファ!というコンセプトでリリースされた」ソファである。しかし西山さんの元にはとても難しいリクエストが来たそうだ。
「図面上、我々のイメージではオーソドックスなソファのイメージ。ただそこに座面を含めすべてにフェザー(フェザー)を入れたいというリクエストだった。背クッションにだけ入れるのが主流だった時代に、です。発表当初はウレタンにフェザーを巻いたものを作っていましたが、そうするとフェザーが潰れる問題があったんですね。その当時のイデーのデザイナーさんからリクエストがあったんです。フェザーとフェザーにサンドイッチされたウレタンが存在する形。形はしっかりしているけど、タッチはふわーっとしている。そんな構想でした」
三嘴さんが続ける。
「ソファの座面はポリウレタン樹脂を発泡させ膨らませたものを使うんです。通常ソファに使用するものはそれを何層にも重ねた厚いもの。固いウレタンと柔らかいウレタンを組み合わせて座った時に感じる体感みたいなものを表現します。先ほどフェザーを使うケースはあまりないと西山さんがおっしゃいましたが、実際はすべてフェザーにするケースは皆無のはず。ウレタンでベースを作ってトップの部分だけにフェザーを使用することで、初期のタッチ感を柔らかくするのが主流です。なのに、イデーが出したのはすべてフェザーにしたいというハードルが高いリクエストだった。
フェザーは空気を入れてやらないと復元しません。ひとことで言えば“ぺしゃんこ”になる。それがどうにかならないのかということで、何度も改良を重ね、フェザーとウレタンを細かく砕いたものを混合し、芯にウレタンを取り入れてサンドイッチにする手法を開発しました。見た目は普通のソファですが、初期タッチ感にかなりこだわりましたので、実際に身体に当たらない部分にもフェザーを取り入れています。こんな方法でフェザーのソファを作っているところはほかにないと思いますが(笑)」
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