――そういったキャラクターを演じるうえで、福山さんが一番カロリーを使っている感じがします
福山「カロリーはたぶんそうですね。ずっと喋っていますから(笑)。ただ、心のカロリーを一番使っているのは中井さんだと思います。僕だったら絶対に百目鬼はムリですね」
――ムリですか?
福山「ムリですね。もちろんやれるようになりたいですけど、百目鬼は難しいですよ」
――どのあたりをそのように感じますか?
福山「百目鬼という役を成り立たせられるのってとても難しいことだと思うんですよ。百目鬼ができるというのではなく、ああいった気質の演技ができる役者さんというカテゴリを作ったら、たぶん10人もいないはずなんですよ、トータルで考えても。その中でのいろいろなことを考えていくと、よくぞ中井さんにって思いますね。それぐらい難しいことをやっていらっしゃるんですよ。とてもじゃないですけど、僕には演じる自信もなければ、できる目処もたっていないです」
――百目鬼以外で、気になるキャラクターはいますか?
福山「四月一日視点でいうと、マルとモロというキャラクターはなかなか出てきづらくはなるのですが、このマルとモロというキャラクターの存在は、大変重要な役割があるんですよ。なかなか喋ることも少なく、水島(監督)さんがアニメの中は後ろでいろいろと喋らせたりはしていますが、『×××HOLiC』の持つ不思議な雰囲気というのは、実はマルとモロが出していることが多いんですよね。なので、気になるキャラクターはたくさんいますが、その中でもマルとモロがとても気になっています」
――水島監督のお話しがでましたが、四月一日を演じるにあたって、水島監督からはどのような指示がありましたか?
福山「監督はわざとヘラヘラして、『まあまあまあ、皆さんがやってくだされば、面白くしていただければ、何でもいいっすよ』みたいな(笑)。本当にこんなテンションで話すんですよ。だから、ああだこうがとおいった細かな指示は、絶対に言わないですね。音響監督の若林さんを通じて、後ろで話し合ったことを伝えてはくれるのですが、演じる人物についての大きなテイストの変更というのは、実はこの5年間、まったくなかったですね。それもありだけど、この成分を増やして、減らして、みたいなお話しはありますが、ベクトルがまったく違うといったことは、四月一日に限らず、すべてのキャラクターを通してなかったかもしれません」
――細かな指示がないというのは、自分なりに演じられる反面、『×××HOLiC』のように正解のわからないキャラクターの場合は、非常に大変なのではないかと思います
福山「だから僕らが頼りにするのは映像のフィルムになるわけですが、音も何もはいっていないので、すごく音を感じさせてくれる作りになっているんですよ。カット数でいえば、昨今のアニメの中では少ないほうだと思うのですが、それをまったく感じさせないテンポ感。うまく緩急がついていて、雰囲気の中で雰囲気に酔える。そういった演出の方々の仕事に、とても難しいことだと思うのですが、僕らはかなり助けられていると思います。その分、台詞はすごくテクニカルなんですけどね(笑)」
――先ほども少しお話しにでましたが、『×××HOLiC』ではおそらく福山さんの台詞が一番多いですよね
福山「まちがいなく一番喋っていますね。ただ、大事なことを言うのはだいたい侑子さんなんですよ……」
――福山さんと侑子役の大原さやかさんは多くの作品で共演なさっていますが、お二人の関係はこの作品からですよね
福山「レギュラーで一緒になったのはこの作品が初めてですね。この作品以降、役柄は全然ちがうんですけど、なぜかポジション的には大原さんが僕の上に立っているという作品が多いですね。別の作品なのですが、この関係が逆転することがありまして、鼻で笑ってやりました。これが現実なんだって(笑)」
――それについては、大原さんも「不本意だ」っておっしゃっていました(笑)。ちなみに『×××HOLiC』の頃と現在で、大原さんに対する印象って変わっていますか?
福山「だいぶ変わりましたね。最初の頃は、"隙のない人"というイメージだったのですが、一皮剥けば隙だらけでした(笑)。決して悪い意味ではなく、親しみやすい人ということですよ。初めて会ったのは、仕事ではなく、みんなで飲んでいる席だったのですが、そのときは何年も先輩の方だと思っていたんですよ。それが、いざ蓋をあけてみたら、僕より後輩というこで、『マジかよ!』って思いました」
――福山さんのほうが先輩になるんですね
福山「業界的にはですけどね。僕はそこで大変なショックを受けた覚えがあります。『何だよ』というのではなくて、『こんな人が後輩なんていやだ~、上にいてよ』っていう感じですけどね(笑)。それぐらいすごく安心感のある人なんですよ。大原さんの作る現場の雰囲気もそうですし、もちろん台詞の力も。『×××HOLiC』から出発して、いろいろな大原さんを見るにつれて、本当に侑子さんは大原さんで良かったなって思いました。侑子の場合、どんな状況でも温かみを最後まで失わないでやり続けるというのがとても難しいところだと思うんですよ。それを声で単純に、感覚として感じさせてくれる役者さんというのは、そうそういやしない。『×××HOLiC』の収録では、常に新しい大原さんを見せてくれていた気がします」