クエスト・ソフトウェア 代表取締役社長 山岡英明氏

2009年9月、米Quest Softwareの日本法人(以下、クエスト・ソフトウェア)代表取締役社長に山岡英明氏が就任した。

山岡氏は、テストツールベンダーのエンピレックスにおいて、副社長という立場から日本向けビジネスを推進してきた人物。立ち上げから参画し、国内シェア3割を獲得するまでにビジネスを拡大させた実績を持つ。

本稿では、山岡氏の経歴を追いながら、氏が考える外資系ベンダー成功のポイントと、クエスト・ソフトウェアにおけるビジネス戦略を紹介していこう。

コンピュータ教育が遅れていた日本

山岡氏のソフトウェア事業に対する情熱の原点を探ると、大学時代にまでさかのぼることになる。

氏は米国ブリガムヤング大学(Brigham Young University)にて数学を専攻。慣れない米国での授業もそれほど苦にならなかったという山岡氏だが、一つだけ大変な思いをした科目があった。それがコンピュータの授業である。

山岡氏が同校に入学したのは約20年前のことだが、米国では当時から高校の授業でコンピュータを扱っていた。山岡氏が初めて目にするUNIXワークステーションを周囲の学生は慣れた手つきで操作しており、それに合わせて授業が進められるため、当初はついていくのが大変だったという。

このとき感じたのが「日本は遅れている」(山岡氏)ということ。あまりに大きなITリテラシーの違いに焦燥感を覚えたという。

その後、山岡氏はIT企業数社に勤め、マーキュリー・インタラクティブ・ジャパンへ移籍。同社在籍中の30歳のときに米国Empirexから会社設立準備段階で声をかけられ、その日本法人にあたるエンピレックスに籍を置くことになった。

ローカライズよりも困ったときのサポートが大切

山岡氏がエンピレックスに入社した当時のテストツール市場は、ワールドワイドで約50%を米国Mercury Interactiveが占有。日本市場においても同様の状況にあったという。米国においても新規参入という段階でまったく実績がないエンピレックスが、寡占状態の市場を切り崩すにはどうすればよいのか、議論は慎重に進められた。

そこで山岡氏らが出した答えは、「日本の利用者が本当に求めている部分を手厚くサポートする」というビジネスの原点に立ち返ったもの。というのも、日本のテストツールユーザーの状況を客観的に分析したところ、次のような結論に達したのだという。

「日本では、製品のローカライズよりも、サポートやドキュメント、コンサルティングなどに重きを置くユーザーが多い。にも関わらず、これらを充実させている外資系ベンダーはほとんどなかった。そもそも、テストツールは開発者が使うものなので、最初から100%の品質は期待されていない。それよりも、利用者が困ったときにどういう対応をとれるかのほうが重要。もちろん、ソフトウェアの機能強化にも力を入れていたし、2バイト文字への対応など、日本向け対応も取り込んでもらっていたが、当時はユーザーが使いやすい環境を整えることのほうに多くの力を注いだ」(山岡氏)

山岡氏らはそのほかにも、ライセンス体系を売り切り型ではなく、サブスクリプション型にするといった工夫も行った。これにより、「それまでの開発者は新たなプロジェクトを立ち上げる度にユーザーのお金で新しいテストツールを購入していたが、SIerが使い慣れたものを自分の道具として持参する状況ができた」と言い、システム構築費と教育コストの削減を達成するに至った。