――最初の頃は表現力がなかったというお話がありましたが、やはり長年にわたって現場の経験を重ねることで身についてきたものなのでしょうか。

そうですね。何十年もやらないと、表現力は身にはつかないとは思うんですけど、とにかくいろんな方のナレーションを聞きまくって“聞くチカラ”を付けることですね。テレビを片っ端から見ることが大切かと思います。テクニック的には原稿を頂いたら文脈を確認し、どの文言がどこにかかっているのか考える。そして“緩急”や“間”を大切にし、視聴者のことを常に考えながら読む。そうすれば自ずと付いてくると思います。

最初の頃はもう本当にがむしゃらに文字を追うだけで、間も抑揚も高低差も強弱もない、ずっと一定のトーンで読み続けていて、さっき言った『車天国らぶらぶドライブ』なんて今見返すと本当に下手くそですよ(笑)。そこからいろんなディレクターに育ててもらって、今の服部潤が存在しているんです。

――毎回収録前には、いろいろ準備されるのですか?

僕の場合、今は原稿と映像を頂いても何もチェックしないんです。下読みもしないで状態でブースに入って録りだします。それは、視聴者の皆さんと一緒に、初めてVTRを見る感覚をナレーションに乗せたいんですよ。

こんなことは駆け出しの頃にはできないですけど、僕はたまたま『エクスプレス』で生ナレーションを4年やらせていただいたので、一発で尺にはめて読むという作業ができるようになっていたんです。あとは見た感覚をナレーションに乗せるという作業をしているんだと思います。

――下読みなしの一発録りでOKを出すというのは、まさに職人技ですね。

1回見ちゃうと、なんかダメなんですよね。2回目に同じことができたいというか。前に『NHKスペシャル』をやらせていただいたときに、リハーサルで最初から最後まで全部VTRを流して読んだんですけど、その後に本番をやったら「服部さん、リハのほうが良かったので、リハの時みたいにお願いします」って言われて、「やっぱりな」と確信しました。

「ちょっとやりすぎです」と言われるように

――先ほど藤井健太郎さんのお話もありましたが、ほかに印象に残る制作者を挙げるとすると、どなたになりますか?

この連載に出てる人たちはみんなそうですね。マイアミ啓太(元フジテレビ、『人生のパイセンTV』『とんねるずのみなさんのおかげでした』など)も元気なやつで、型破りというか。ああいう勢いのあるディレクターは大事ですよね。マッコイ斉藤(『とんねるずのみなさんのおかげでした』など)もそうですけど、いい意味で“奇人”じゃないですか(笑)。ああいうディレクターがいないと、テレビは衰退していくんじゃないかと思います。今はコンプライアンス的に難しいことがあるかもしれないけど、マイアミにしてもマッコイにしても、楽しいものをお届けしようという気持ちが強いなと思いますね。

――そういうディレクターの方との仕事は、やはりナレーションもノッてきますか?

そうですね、本当楽しかったですよ。だから、最近の若いナレーターの人は型にはまったナレーションしかさせてもらってないだろうから、かわいそうだなと思うんです。昔は、いろいろ好き勝手やれたので、収録に臨む時にディレクターの想像を超えてやろうと思ってやるんですよ。ちょっとやりすぎのところがあってもOKになる時代だったのですが、今はそれをやっちゃうと「服部さん、ちょっとやりすぎです」って言われちゃう。昔は全然OKだったんだけどね。

――やりすぎると、視聴者からクレームが来てしまうのでしょうか?

どうなんでしょう。でも、こっちとしては、番組が楽しいとナレーションもテンション上げたいじゃないすか。そうすると「もうちょっと落としてください」と言われるし、変な癖とか抑揚をつけてみると、「いや、普通でいいです」ってなっちゃうんです。

――それでも、新しい番組を始める時に「ディレクターの想像を超えてやろう」という気持ちでやっていくんですね。

はい。ディレクターが面白がってくれたら、そこで成功だと思うので、ギリギリのラインでやってます。オファーしてきたディレクターは、イメージしてた「服部潤」でいいんですよ。でもそれじゃつまらないじゃないですか。結局、「そこまでやらなくていいです」って言われちゃうんですけど(笑)、そこのさじ加減が難しいですね。

――その傾向は、ゴールデン・深夜を問わずですか?

そうですね。

――最初に言った、バラエティ番組のナレーションを服部さんが席巻しているイメージがあるのは、服部さんが印象に残るナレーションを入れようと奮闘されているからなのかもしれませんね。

今の若い子たちはみんな上手で器用なんですよ。だけど、誰だか分からないんです。ベテランなら、真地勇志さん、窪田等さん、奥田民義さん、垂木勉さん、平野義和さん、木村匡也さんとか、名前があって個性的なナレーターがたくさんいるじゃないですか。でも、若い子たちでなかなかそういう人が出てこないのは、ディレクターに抑えられちゃって「これやっちゃうとマズいかな…」という気持ちでやっている部分があるのかもしれない。このままじゃみんな成長していかないですから、そこは危機感を持っています。

――今注目している若いナレーターさんを伺おうと思っていたのですが…

本当に分からないんですよ(笑)。『鬼滅の刃』がヒットしてから声優さんがナレーションをすることも多くなってきたじゃないですか。SNSがバズるし、TVerが回るというのもあると思うんですけど、そうなるとますます若いナレーターにチャンスがないんですよね。

――『27時間テレビ』は若い視聴者を中心に大きな盛り上がりを見せましたが、ナレーターは70代の銀河万丈さんでしたし。

そういう世界なんですよ(笑)

――番組の制作側も、新しい世代のナレーターさんを発掘して育てるという意識が必要になってきそうですね。

それは制作サイドも分かっていると思うんですけど、安定志向で服部潤や、銀河さん、垂木勉さん、立木文彦さんを使ったり、目先のバズりでヒットアニメの声優さんを頼るんでしょうね。