――そこからいよいよ、テレビ番組のナレーターとして本格的にスタートするんですね。ターニングポイントになった番組は何ですか?
99年の3月29日に、TBSで朝6時から8時半までの『エクスプレス』っていう番組が始まるんです。女性をターゲットにして、エンタメに特化した柔らかめの情報番組で、スポーツコーナーのナレーターを探しているということで、オーディションに行ったんですよ。だけど、生ナレーションで毎日朝5時入りなんで、全然やる気なかったんです。原稿渡されてしゃべってもカミカミで、25人くらい来てたのでこれは落ちるだろうなと思ったら、受かっちゃった(笑)
それで月曜から金曜まで毎日、緊張と寝不足で、3か月経った頃に顎関節症になってしまって。豆腐も噛めないくらいの痛みなんだけど何とかしゃべれるので、他の仕事は控えてこの朝の番組だけに集中してやっていたんです。そうするうちに症状が少しずつ良くなってきて、きっと慣れてきたんでしょうね、緊張も解けてきて。そしたらプロデューサーから「服部さんにエンタメもニュースも全部やってもらいたい」と言われまして、そこからちょっと大変になったんですけど、生放送で原稿の下読みもできない中でいろんなことをやらされて、あの現場で今の服部潤が少し形作られたのかなと思います。
――相当鍛えられたんですね。誰かに指導を受けたということはあったのですか?
それが全く受けてないんです。いろんな方のナレーションを聞いて勉強していた時期もありましたけど、朝の番組をやりだしてからは、そのOAが勉強の場みたいな感じでしたね。生放送だから「ちょっとこんなことを試してみようかな」って、やったもん勝ちでできちゃうんですよ。後で怒られたこともありますけど(笑)
――生放送が終わったら、後でチェックして。
そうですね。全部VHSテープに撮って聞いてました。
――『エクスプレス』は2002年に終了しますが、それからバラエティに進出という流れですか?
実は、『エクスプレス』と同じタイミングで、『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ)もやるようになったんです。最初は野猿のドキュメンタリーで呼んでもらったんですけど、初めての収録が終わったらディレクターさんに「今、いろんなナレーターさんで試してるんで、来週は服部さんじゃないかもしれないです」って言われて。でも、1回でもとんねるずに携われたからすごくうれしかったんですね。そしたら、次の週から20年弱やることになりました。最初は表現力が全くなかったので、がむしゃらになって読むのに必死でしたね。
――そこから徐々にバラエティが広がっていた感じですか?
当時のマネージャーが僕のことをすごく買ってくれて、『エクスプレス』が終わったらすぐに『王様のブランチ』(TBS)が決まりました。
――佐久間宣行さんの番組も多いですが、出会いは『ゴッドタン』(テレビ東京、05年~)ですか?
そうです。『大人のコンソメ』という前身番組は、青二の大ベテランの銀河万丈さんがやっていたのですが、『ゴッドタン』になるときにナレーターも代えるということになって、そこから大変お世話になってます。
『水曜日のダウンタウン』初回OAを見て「がく然とした」
――そして、2014年に『水曜日のダウンタウン』(TBS)が始まります。
今ではもう名刺代わりの番組になってますね。小学校時代は大阪に住んでいて吉本新喜劇で育ったのでダウンタウンさんも大好きで、いつかやりたいなと思ってたんですけど、当時はとんねるずさんの『みなさん』をやっていたので、何となくダウンタウンさんの番組では使ってくれない空気があったんですよ。でも、藤井健太郎(『水曜日のダウンタウン』演出)はそんなの関係ない人なんで。
――『水曜日』を始めるきっかけは何だったのですか?
青木真一というマネージャーが、いつか藤井健太郎と服部潤で一緒に仕事をさせたいってずっと思ってたらしいんですよ。なかなか機会がなかったんですけど、千原ジュニアさんの国技館ライブで流すVTRを藤井健太郎が作るというのを聞いた青木がチャンスだと思って、僕を藤井のところに連れてっいたんです。それが『水曜日のダウンタウン』が始まるちょっと前でしたね。だから本当に、うちのマネージャーたちには頭が上がらないです。
――『水曜日』は、『みなさん』や『ゴッドタン』など他の番組に比べて、独特の低いトーンで読まれていますよね。
最初は、藤井から何も指示がなかったから、他の番組と同じようなテンションでしゃべってたんですよ。それで1回目のOAを見たときにがく然としたんです。VTRがこんなに面白いのに、俺のナレーションが邪魔だと思ったんですよ。音楽も原稿の言葉のセンスも面白いじゃないですか。それで藤井に「ちょっと(トーンを)落としていい?」と言って、今の形になったんです。そしたら、やっぱりVTRが面白く際立って良かったなと思いますね。
――本当に絶妙なワードチョイスですよね。
担当ディレクターが書いた原稿を藤井が直すんですけど、1回それを見たら赤(=修正)がすごいんです。やっぱり藤井が直したほうが面白くなるんですよね。あの番組は、ナレーション中に笑っちゃってしゃべれなくなることもあって、本当に読めなくなったときは、「これはもう無理!」って休ませてもらいます(笑)。後にも先にも、そんな番組は『水曜日』だけですね。
しかも、あの低いトーンで読まなきゃいけないので、ちょっと顔が笑っただけで、分かっちゃうんですよ。そしたら藤井が「今笑ってたんでもう1回お願いします」って。もう無理ですよ(笑)
――笑っちゃって読めなくなてしまった回で特に印象に残るのは、何ですか?
最近だと、怪しい話をする東ブクロさんにひょうろくさんが指切りをして約束するところで「成人があまり取らない手法」とか(※1)、あぁ~しらきさんが角刈りのカツラを外して角刈りの髪型が現れたところで「角刈りのヅラを外し……角刈りになったところで」とか(※2)、THE 虎舞竜の「ロード」のMVで高橋ジョージさんが白い息を吐いてるところで「やかんのような吐息」とか(※3)、こんなの読めませんよ(笑)。とにかく藤井健太郎の言葉のチョイスにやられます。
(※1)…「怪しい高額報酬バイト、引き受けたが最後どんなに犯罪の匂いがする闇バイト風だったとしてももう引き返せない説」
(※2)…「楽屋の弁当持って帰り王決定戦」
(※3)…「曲のサビでちょうど涙は難しい説」
――TVerで過去の傑作選が配信されることがあるじゃないですか。それを見ると、初期の頃は、今より若干テンポが速いですよね。
そうなんです。『水曜日』もそうですが、全ての番組において原稿量はさほど変わってないと思うんですけど、きっと“緩急”や“間”をうまく使えるようになったのかなと思います。それでゆっくりに聞こえるんじゃないかと思うんです。