――“人”の面白さという点以外での番組制作における共通のこだわりを伺いたいのですが、平野さんの番組といえば『せっかくグルメ』で「Zip-a-Dee-Doo-Dah」、『わかる金?』で「聖者の行進」、『ベスコングルメ』で「リパブリック讃歌」と、古き良きアメリカの名曲の替え歌をテーマ曲にしていますよね。

最初は『せっかくグルメ』の特番だったんですけど、1回のOAで終わっちゃうのでちょっとでも番組の印象を残したいなと思ったんです。それまでだったら『(東野・岡村の)旅猿』(日本テレビ)で奥田民生さんの曲を使うとか、『めちゃイケ(めちゃ×2イケてるッ!)』(フジテレビ)でJUDY AND MARYさんの曲を使うといった印象に残る方法があったんですけど、もっとやり方がないかなと思ったんです。

それで当時、レイザーラモンRGさんの「あるある早く言いたい」が流行り始めた頃だったんですけど、ずっと同じこと言ってるじゃないですか。あんな感じで、ずっと番組タイトルを言いまくる曲が作れないかなと思ったんです。『せっかくグルメ』はあのディズニーの曲が好きだったので、タイトルを連呼しつつ、歌詞にもなってる曲を作ったら、やっぱりみんな「歌いいよね」とか「あの歌なんだ?」「誰が作ったんだ?」みたいな反応になったので、そこから番組を立ち上げるごとに曲を作っています。

――元はみんなが知ってる曲ですし、Dreamers Union Choirさんのコーラスも耳に残ります。歌詞は平野さんが考えているのですか?

はい。だいたい40秒くらいの尺で、それをループできるようにしてるんですけど、完成するのに1か月くらいかかりますね。どこかに発表するわけじゃないんですけど、ちゃんと意味になっているかとかを考えて、出社する時や風呂に入ってる時に作っています。

これも、『からくりTV』での経験が生きているんです。「芸能人替え歌王決定戦」の担当ディレクターもやってて、演者さんと相談しながら歌を作っていくんですけど、その時に歌詞をどう曲にはめていくかというのをやっていました。

――OAでは事あるごとに流されていますから、効果も絶大ですよね。

放送中にタイトルを聴かせ続けて、言葉は悪いですけど洗脳していく作戦です(笑)

――ほかにも、平野さんの担当番組は、収録時のスタジオがかなり盛り上がると伺いました。その空気づくりは、かなり意識されていますか?

VTRもスタジオ展開も出演者を楽しませる、盛り上げることをかなり大事にしながら演出を考えています。まずは出演者を楽しませないと、その先にいる視聴者は楽しめないと思うんです。あと、僕が視聴者だったとき面白いと思っていた番組はすべて出演者が楽しそうにしていたんですよね。それが魅力的に見えたというか。テレビっていいなと。だから僕の番組でも大事にしていきたいと思っています。

「視聴率とれるから、これをやろう」では通用しない時代に

――キャリアを重ねてきた中で、テレビをめぐる環境の変化を感じる部分や、そこへの対応はいかがでしょうか?

やっぱりぼんやりしてる番組はもう厳しいんだろうなと。例えば、「日村勇紀が日本全国で飯を食ってる番組」といった形で、企画趣旨がパキッと言えることが大事になっていると思うんです。視聴者がテレビの前から少なくなってきているので、よりはっきりとしてて、骨太であり、ちゃんと番組としてやりたいことがあって、面白いポイントがある番組だということが、僕が入社した17年前よりも大事になっている。もう小手先だと通用しない感じがすごくありますね。

――最初にお話しいただいた合田さんの「放送する価値のあるものを流さなきゃいけない」という言葉が、今になってより生きるようになったということですね。

そうですね。「視聴率とれるから、これをやろう」といった理屈だと、ちょっと厳しくなってきている感じがあります。数年前まで、そういう番組って結構あったと思うんですけど、それはもう上手くいかなくなっていると思います。

――今後こういう番組を作っていきたいというものはありますか?

40歳になったんですけど、20代・30代といろんな経験を積ませてもらって、『せっかくグルメ』でバナナマンさん、『感謝祭』で今田耕司さん、『からくりTV』でさんまさんからいろいろ教わってきたので、自分よりだいぶ年下の方と番組をやってみたいというのがありますね。例えば、芸人さんとか、アイドルの方とか、若い人と仕事をすることでまた違う面白みがあったりするのかなと思います。

――ご自身が影響を受けたテレビ番組は、何ですか?

めちゃくちゃ月並みですけど、『めちゃイケ』ですね。僕らの世代は全員そうだと思うんですけど、採用面接のときに「好きな番組はなんですか?」と聞かれても、『めちゃイケ』と答えるのは、もうみんなが言うから絶対良くないって感じだったんですよ(笑)

あの番組も“人”の面白さがすごくありましたよね。岡村(隆史)さんが一生懸命頑張ってステージに立って完璧に踊るストイックさとか、加藤(浩次)さんの狂犬ぶりとか、人や人の人生を面白がっているところがずっと好きだったんだなと思います。

――『もてナイ』でナイナイさんと最初お仕事した時は、そりゃもううれしかったですか?

緊張しましたね。でも、優しかったです(笑)

――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている“テレビ屋”を伺いたいのですが…

フジテレビの『新しいカギ』をやってる田中良樹さんです。「学校かくれんぼ」はうちの小学生の子どもも大好きで、いつも見ています。純度の高いバラエティで、ああやってみんなで盛り上がれる番組は、昔はうちでも『学校へ行こう!』がありましたけど、今の時代は視聴率のことを考えると結構難しいんです。でも『新しいカギ』はちゃんと結果も残している。それと、知ってる作家さんにすごくイケメンだと聞いているので、興味深いです(笑)

  • 次回の“テレビ屋”は…
  • 『新しいカギ』『FNS27時間テレビ』田中良樹氏