――『せっかくグルメ』は、おすすめのお店を教えてくれる一般の人たちがポイントですが、皆さんが協力してくれて、番組として成立するという見込みは最初からあったのですか?
最初は日村さんと一般の方を絡ませる企画をやりたかったんです。そこにグルメをかけ合わせたんですけど、『からくりTV』とか『もてナイ』で地方ロケに行った時に、地元のおじさんやおばさんに「このミカン持って帰れ」とか「これ食ってけ」って言われることが多かったんですよ。だから、地元のものを食べてもらいたいというメンタルは皆さんあるのかなと思って企画にしていった感じですね。でも、今考えると最初からこんなにうまくいくとは思わなかったです。日村さんには最初のロケの時、「極論言うと、ファミレスが出てきてもそのままやりましょう」と言ってたんです。
――本当に魅力的なお店が毎回登場しますよね。初取材のお店も多いですか?
多いですね。やっぱり日村さんが直接交渉するというのも効いてると思います。わざわざ日村さんが電話をかけて「食べさせてもらえないですか?」って言ってくれるなら、という感じになることも多いです。
それと、最近は番組が結構認知されてきて、「ついにうちの店にもきた!」って言ってくれたりするんです。飲食店の方たちは、同業者が出てくる番組にやっぱり興味があるんでしょうね。「他の番組だとお断りしてるけど、『せっかくグルメ』ならいいですよ」というパターンも増えてきました。
――初めて取材を受けるお店を紹介できたら、普通の番組だと「テレビ初登場!」とアピールすると思うんです。でも、それをやってないですよね。
たしかにそうですね。あんまり意識してこなかったです(笑)。僕らも日村さんもそうなんですけど、本当にピュアにロケをやっているからかもしれないです。おすすめのお店を聞いて、交渉してOKだったときに、みんなで「やった!」「1軒ゲットできた!」ってめちゃくちゃ喜ぶんですよ。だから、いろいろ細かいことが吹っ飛んでる部分があるかもしれないです(笑)
――日村さんはもちろんなのですが、俳優のゲストさんも皆さん本当においしそうに食べる姿を見ていると、いわゆる食リポの技術がなくても全然成立するんだと感じます。
日村さんって実は『せっかくグルメ』をやるまで、あんまり食レポをやるタレントさんじゃなかったんですよ。それに、僕もそこまでグルメ番組を経験していなくて、グルメに長けた人や精通している人たちじゃないチームなので、そこもあんまり意識せずに作り始めた結果、「四の五の言うより、“おいしい”という言葉と表情で伝わる」ということになったんだと思います。
――現場でも「もうひとコメントください」と求めないんですね。
そうですね。食レポができたかを撮れ高にはしてないんです。「うまそうだな」とか「ちゃんと味わっているな」とか、堪能しているほうを大事にしています。
――コロナ禍で直接お店を聞くのを避けるために開発された「日村ロボ」(※)がありますが、コロナが明けても俳優さんのロケなどで活用されていますよね。
日村ロボがいいなと思うのは、設置されていると『せっかくグルメ』が来てるというのが一発で分かるんですよね。認知されてきて「見つけた!」って来てくれる方が増えたのと、街の人に声をかけるのに慣れていない俳優さんもロケを楽しめるので、使い続けています。
(※)…ショッピングモールの入口などに設置して、別の場所にいるタレントとリモートで会話できるシステム
――遠くから見て分かるくらいですから、結構大きなサイズだと思うのですが、ロケバスには入らないですよね?
はい。なのでパーツで持っていって、現地で組み立ててます。あんまり言うと「ロボじゃないじゃん」って話になりますけど(笑)
――やはり地方でロケをすると、「せっかくグルメ来てるよ」と口コミが広がるのを感じることがありますか?
ありますね。日村さんが住宅街を歩いて全然人がいなかったのに、急にどんどん集まってくるような状況になったりして、認知の拡大を感じます。
バナナマンが見せた奇跡のコンビネーション
――日村さんがお店に電話をかける時、番組名から入らず、「東京でバナナマンというお笑い芸人をやってる日村という者なんですけど」と名乗るのが、人柄が表れてるなと思います。
たしかにそうですね。自然と言っていたので、気づかなかったです(笑)。日村さんは礼儀正しい人なので、ご本人からすると当然のことなのかもしれません。
――お店への移動では日村さん自ら車を運転されていますが、その狙いは何でしょうか?
これもコロナがきっかけです。人が集まってきちゃうので街が歩けなくなったんですけど、街を感じたいなと思って。で、日村さんはめちゃくちゃ運転が好きなのを知っていたので、自分で運転してもらって、街ブラができない代わりに街の景色が感じられる演出をしようと思ったんです。
――ドローンの引きの画とか見ると、行きたくなりますよね。それでお店に到着すると、ちゃんと駐車場に停めるまで映していますが、本当にずっと日村さんが運転してるんですね。
次の場所まで40分かかるというときに、「近くまでロケ車で行って、途中から車に乗り換えてもいいですよ」って言ったら、日村さん「いや運転するよ」って言うんです。でも、移動中の画なんてほぼ使わないんですよ。結構ちっちゃい車で窮屈だと思うんですけど、ドライブを楽しんでるんですよね。
――スタジオの設楽さんの役割も大きいですよね。
設楽さんには「この日村さんを面白がるんだ!」という驚きがありますよね。駐車するときの顔が変とか、降りるときにつらそうにしてるとか、そういうことを設楽さんの目線で言うことで、VTRが何割増しで面白くなることがたくさんあります。お店の紹介でお客さんにインタビューした時に、渋い感じのおじいさんが「このお店はうまいんだ」と言うと、設楽さんが「このお父さんが言うなら間違いないよ」と言ってくれたり、目線とかノリをすごく作ってくれるんです。ただ「おいしそう」とか「面白いね」だけじゃなくて、設楽さんのエッセンスと角度のあるコメントで、番組がより面白くなっていると思います。
――VTRの日村さんとコンビネーションを発揮するときもありますよね。
日村さんが沼津でろばた焼きを食べていた時に、「これはあの飲み物が合うよね」って振ったら、スタジオの設楽さんが「コーラだね」と答えて、日村さんが「コーラじゃねえわ! ビールだろ!」って、見事な間合いでやり取りする形になったんですよ。
――あれはミラクルでした(笑)
スタジオでは2人でずっとふざけてて、すごいなあと思います。バナナマンさんの魅力はやっぱりそこにあって、2人でずっとくだらないことを言い合ったりして、本当に子どもみたいなんですよ(笑)。実はちゃんとしてそうな設楽さんのほうが少年の心を持ち続けているところがありますよね。
――日村さんのロケには全部立ち会われると聞きました。総合演出の方がロケにも行かれるのはあまりないと思います。
この番組は台本がなくて本当に成り行きでやっていくので、やっぱり現場でジャッジしないといけないことが出てくるんです。“ここが面白いポイントだな”というのが現場にいないと分からないこともあって、そこを見逃したくないので行ってますね。それと複雑なくだりがあって、「編集上こうしていくつもりなので」というのを日村さんに伝えることもあるので。
――地方のお店を紹介するグルメ番組という点で、『オモウマい店』(中京テレビ)は意識されますか?
『オモウマい店』はお店の人が主役ですが、僕らどちらかというと旅番組っぽいのかなと思うんです。日村さんを筆頭に俳優さんやギャル曽根さんもそうですけど、行った人が楽しみながら食べて満喫してる感じが見どころなので、意識は全然してないですね。