――ドラマ制作における働き方を考える中で、今回プロデュースを手がけるスペシャルドラマ『テレビ報道記者~ニュースをつないだ女たち~』の発表の際のコメントでは、「お仕事ドラマです」と紹介されていました。
リアルなものを出す面白さを『ブラッシュアップライフ』で実感したので、それに今回も挑んでいます。まずは実際にあった事件が劇中に出てくることに興味を持ってもらいたいと思っていますが、実はすごく“お仕事ドラマ”なんです。なので、芳根京子さん演じる和泉という新人記者の働き方と、私世代の働き方をしてきた江口のりこさん演じる真野という2人が、初めは価値観の違いに戸惑うんだけど、だんだん歩み寄っていくというところも、見どころの一つです。
――今回の作品に、小田さんは途中から参加されたんですよね。
私にとってイレギュラーな形なのですが、もともと日本テレビ開局70年の企画募集で、報道局のメンバーが出した企画なんです。バラエティ出身の報道の先輩から「実際に起きた事件を描きながら、そこに向き合ってきた女性記者たちをドラマにしたいんだけど、興味ない?」と誘われて、“女性の働き方の変化”にちょうど興味があったので参加したのですが、気づいたら船頭になってて(笑)
――他にドラマ制作の人はいなかったんですね(笑)
アドバイザーぐらいの気持ちで入ったんですが(笑)。でも、日本テレビの報道記者たちに取材を始めて、最初に日本テレビで最初に女性記者になった笹尾敬子さん、その後にコメンテーターでおなじみの下川美奈さん、同世代の森田陽子さんの話を聞いて、すごく面白かったんです。昔の働き方は今からすると想像を絶するし、今でも「遊軍」とか「1番機、2番機」とか軍隊用語を使っていて、私もドラマ部で一生懸命働いているつもりだったんですけど、もっとヤバい…いえ、すごい人たちがいたんだなと思って。
特に、下川さんを取材したのは一昨年ちょうど下川さんが女性初の社会部長になったときだったんですけど、警視庁記者クラブのキャップというハードな役職に子育て中で時短勤務の森田さんを任命したという話を聞いたんですよ。以前、2人は一緒に警視庁クラブにいた時期があるので信頼関係があって、「皆で助け合えば子育てしながらでもキャップもできる…そんなチームにしたい」という話を行きつけの焼肉屋さんでしたというのを聞いて、「とんでもない原作を見つけた!」という気持ちになったんです。
――取材からドラマにしたエピソードで、他に印象的なものは何ですか?
若い社員を取材した時に、仕事を家に持ち帰る人に対して、「ずる働き」していると表現していて。分かります? 勤務時間外に働いたことが評価につながるのは公平ではないってことだそうです。自分にはない発想で即採用(笑)。この作品は“働き方の変貌”というテーマで面白いドラマになると確信した瞬間でした。
――小田さんは「お仕事ドラマ」と捉えましたが、もともと企画した報道の人たちと、その部分での意思統一はスムーズにいったのですか?
取材対象の方を紹介していただいたり、脚本も細かく相談したりしているのですが、ドラマの目線でどういうストーリーにしていくかというところは、結構お任せしてくれました。
――報道と一緒に作っているのを象徴するのは、日テレ本社の本物の報道フロアで撮影されていることですよね。24時間365日稼働している場所で、どうやって撮影したのですか?
土日が比較的に出社する人が少ないと聞き、毎週末かなり広い範囲を借りて撮ってました。もちろん、緊急のニュースがあったら急きょ撮影NGになるという前提で。通信社からの速報音がしたら撮影を止めて、しばらく待ってまた撮り始めるなんてことは、ざらにありましたね。それでも、あそこではないと撮れない画があるし、ニュースが入ったときに報道の人たちが一斉に動く姿を見て、みんなで勉強したりしていました。
自分たちの讃歌になるようなドラマには絶対しない
――近年は「マスゴミ」と揶揄(やゆ)されることもある中で、報道記者にフォーカスを当てたドラマの描き方というのは、相当議論されたのではないでしょうか。
そこは相当しましたね。立ち上げのときから一番意識しているのは、レジェンド女性記者の武勇伝にするのは絶対にやめようということ。何度もミスして、悩んで、それでも毎日働く、普通の人たちの姿を描こうと。「マスゴミ」と言われるような行動に疑問を持ちながら働いていることも伝える。それでもドラマを作っていると、主人公が誰かに褒めてほしいところがあるんです。ただ、この題材については、そういうのを入れると急にしらけるだろうなと思って極力やめています。
――最近、『エルピス-希望、あるいは災い-』(カンテレ)というテレビ報道への自己批判的な要素を持ったドラマもありましたし。
そうなんです。だから、「テレビ報道ってすごいんだぞ」とか「日テレってすごいんだぞ」と、自分たちの讃歌になるようなドラマには絶対しないという思いで制作しました。
ただ本心では、報道の人たちを取材して、なんなら報道の人たちってお堅いイメージで苦手だったんですけど、カッコイイなと思いました。そして、仲間なんだって思えるようになりました。このドラマのキャッチフレーズ【私は諦めない。先輩が諦めなかったから。】…とても気に入っていて、お守りみたいに大事にしています。ツラい時、このフレーズと一緒に思い浮かべる先輩たち…ドラマや情報バラエティの人に加えて、報道の人の顔も浮かび、ここで、日テレで、頑張ろうと勇気が出ます。
――ちなみに、劇中に懐かしの日テレのキャラクター「なんだろう君」のぬいぐるみが出てきますが、よく残ってましたね(笑)
あれは時代を映すものなので、小道具として結構こだわったんですよ。すぐ宣伝部に「持ってない?」と聞いたらデカいサイズしかなくて、社員の人に聞いて回って入手しました。下川さんの実家にあったものです(笑)