注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、日本テレビでドラマ制作を手がける小田玲奈プロデューサーだ。

23年1月期に放送された『ブラッシュアップライフ』で数々の賞を受賞し、3月5日に放送される開局70年スペシャルドラマ『テレビ報道記者 ~ニュースをつないだ女たち~』、そして4月に新シリーズとしてスタートする『花咲舞が黙ってない』と話題作を立て続けに手がける同氏。ドラマ制作10年というキャリアを重ねる中で感じる脚本家・主演俳優・原作者、さらには制作チームとの向き合い方について、その覚悟を語ってくれた――。

  • 日本テレビの小田玲奈プロデューサー

    小田玲奈
    1980年生まれ、東京都出身。日本大学芸術学部卒業後、03年に日本テレビ放送網入社。『ズームイン!!SUPER』『メレンゲの気持ち』『アナザースカイ』『有吉ゼミ』など情報番組・バラエティ番組を担当した後、『家売るオンナ』(16年)で連続ドラマを初プロデュース。その後、『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』『知らなくていいコト』『恋です! ~ヤンキー君と白杖ガール』『悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?』『名探偵ステイホームズ』などを制作し、バカリズム脚本のドラマは『ブラッシュアップライフ』のほか『生田家の朝』『住住』『ノンレムの窓』『侵入者たちの晩餐』を手がける。今後、3月5日放送の開局70年スペシャルドラマ『テレビ報道記者 ~ニュースをつないだ女たち~』、4月スタートの新ドラマ『花咲舞が黙ってない』を担当する。

“地元系”でも海外を意識した『ブラッシュアップライフ』

――当連載に前回登場したTBSスパークルの新井順子プロデューサーが、小田さんについて、「『家売るオンナ』をやるために家を買ったとか、子どもができてすぐ離婚したという話を聞いて、ぶっ飛んでるなと思いました(笑)」とおっしゃっていました。

『アンナチュラル』しかり『MIU404』しかり、その時代を代表するドラマを作っている方が指名してくれたんだと喜んでいましたが、ぶっ飛んでるヤバいやつだからなんですね(笑)。それはともかく、同世代で活躍されているプロデューサーの存在は励みになる、と表向きには言いますが、気持ち的には敵視しています(笑)。以前、一緒に取材を受けたときに聞いたことが忘れられなくて、すぐ持ち帰って参考にしました。

――それはどんなことですか?

『アンナチュラル』は米津玄師さんの「Lemon」が主題歌でしたが、台本の段階で曲のかかるタイミングを決めているから、そのあたりにはあまりセリフを入れないようにしている、と。自分のドラマは最後のほうでも結構しゃべっていて、主題歌が聴こえなくなっちゃうことをやりがちだったので、本打ち(脚本打ち合わせ)で「ここらへんから主題歌入ってきますもんね」みたいなことを言い出すようになりました。

――『ブラッシュアップライフ』は、毎話その回の内容に沿った当時のヒット曲がとても印象的にエンディングで流れていましたが、その影響ですか?

そこはまた違う経緯なんです。いろんな時代を描くから、主題歌を現代の1曲が背負うことは難しいということで、「主題歌なし」にしたのですが、1話のときに「ポケベルが鳴らなくて」を主題歌みたいに最後にかけたらハマった(※)ので、2話でも槇原敬之さんの曲を提案したら、監督に「うまくいくかもしれないけど、2話もやったら最終回までずっとやらないといけなくなるよ?」と言われて。それでも「やっちゃえ!」って進んだのですが、そこまで考えて脚本も作っていないから、やっぱり結構大変で(笑)。だから、計画的な新井さんと違って、私は本当に行き当たりばったりなんです。

(※)…第1話では、主人公・麻美が保育園時代、洋子先生と不倫しようとしていた玲奈ちゃんパパをポケベルで脅迫して阻止した。

――みなさんそれぞれのスタイルがありますから(笑)。新井さんも『ブラッシュアップライフ』を楽しんでご覧になっていたそうですが、放送から1年経って国内外で賞を獲りまくってますよね。

おかげさまで、本当にありがたいです。

――ただ、「地元系タイムリープ・ヒューマン・コメディー」と銘打った作品が海外でもウケるというのは、想定されていましたか?

実は、元から海外に向けて作ってはいたんです。向田邦子賞の脚本家のバカリズムさんがいて、世界的に活躍する安藤サクラさんという主演がいるのだから、台本では“地元”で起こるささやかな日常を描いているけど、撮影機材は映画で使うようなカメラを使って、世界クオリティものを作ると会社にも言っていました。正直「大丈夫かな?」とも思っていましたが、「懐かしい」という感想を海外からも頂けたんです。例えば『ストレンジャー・シングス』(米Netflixドラマ)も1980年代の地方都市が舞台ですが、私たちはその“地元”をよく知らないし、そこのカルチャーも体感してないけど、やっぱり懐かしい感覚があるじゃないですか。そこは、バカリズムさんとも最初から話していましたね。

――行き当たりばったりじゃなくて、計画的じゃないですか!

バカリズムさんと監督が計算してくれたので(笑)

  • 『ブラッシュアップライフ』より=Huluで全話配信中 (C)日テレ

子どもができて「急に人生のゲームが難しくなった」

――小田さんはどのような経緯でドラマ制作を目指したのですか?

三谷幸喜さんがすごく好きで、三谷さんみたいな脚本家になりたくて、同じ日本大学芸術学部(演劇学科・劇作コース)に通って、4年生のときに映画会社や制作会社に電話して脚本家になりたいと言ったら、「そういう雇い方はしてない」と言われて。だったらテレビ局に入ってコネを作ればなれるんじゃないかと思って日テレに入ったんですけど、ドラマに行くまで10年かかりました(笑)

――入社されて、最初は情報番組、そしてバラエティを担当されていました。

ドラマをやりたいことを忘れちゃうくらい、すごく楽しかったんです。それで、最初に連ドラをやった『家売るオンナ』で大石静さんとご一緒させていただいたのですが、脚本家って思った以上に偉大で、そして孤独で…。すぐに自分がなろうなんて気持ちはなくなりました。

――あれほど夢見たのに、すぐに諦めてしまうほど大変そうな仕事だったと。

大石先生ほどのベテランが、円形脱毛症になるほど悩み苦しみながら書いていたんですよ。「連ドラを作るのは、子どもを1人産むくらい命を削っている」と言うほどシンドい仕事なんだということを、『家売るオンナ』の本打ちで2人きりになったときに教えてくれて。脚本家と向き合うのには、相当の覚悟がいるということを、最初の連ドラで学ばせてもらいました。

それと同様に、『家売るオンナ』の主演の北川景子さんが、現場では楽しく振る舞っているけど、裏ではものすごくもがきながら、大変なプレッシャーの中でやってくださっているのを感じました。それは、『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』の石原さとみさん、『知らなくていいコト』の吉高由里子さん、『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』の菅野美穂さん、『恋です! ~ヤンキー君と白杖ガール』の杉咲花ちゃん、『悪女(わる) ~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?』の今田美桜ちゃん、『ブラッシュアップライフ』の安藤サクラさん……年齢やキャリアにかかわらず、全身全霊で向き合っている感じが伝わってくるんです。

――脚本家さんと同じように、主演のみなさんも削っているものがあるんですね。

そういう意味でいうと、4月期の『花咲舞が黙ってない』では原作の池井戸潤先生ともやり取りをしていて、池井戸先生なんていつか教科書に載る人だと思うとメール1件送るのも緊張してしまうのですが、実際にお会いするとすごく話しやすい、気さくな方で。それでも、台本の銀行の描写に細かく鋭い指摘をしてくださるのを見ると、原作者として背負っているものがあるんだと感じます。

だから、脚本家、主演俳優、原作者といった特別な才能を持った人たちと私たちプロデューサーの向き合い方というのは、本当に難しい。生半可な思いではできないんだと改めて感じます。そのことを、私は最初に大石さんに教えてもらったのが、すごく大きいです。

――プロデューサーとしてのご自身のドラマへの向き合い方は、キャリア10年を振り返っていかがですか?

ドラマを作るのは、本当に大変だなと毎回思いますし、いつもドッタンバッタン大騒ぎという感じを、ずっとやってますね。慣れてきて楽になるなんてことはなくて、やればやるほどいろんなことが気になるようになるんです。『ブラッシュアップライフ』で、バカリズムさんの脚本の作り方とか、安藤サクラさんのお芝居へのアプローチの仕方が、これまでの作品と全然違くて、次の作品でこだわりたいことが増えてしまって…。そういうのがどの作品でもあるので、「あれもやんなきゃ! これもやんなきゃ!」ってなって、言葉を選ばずに言うとやればやるほどシンドくなるし(笑)、奥深さを感じていますね。

――そこにずっとハマり続けているんですね。

そうですね。それと、自分に子どもができたことで、それまでは仕事にいくらでも時間をかけられたのに制限ができて、急に人生のゲームが難しくなった感覚があって。そこに、コロナがあって働き方が変わったり、新しい価値観を持った後輩が入ってきたりして、面白いドラマを作るのは大前提として、その上でどうやったら、どんな働き方だったらみんなが “楽しく”ドラマを作れるんだろうというのが、今一番のテーマになってます。